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高齢者の食欲不振とは
年齢の上昇にともない,食事量が減少す
る事があります. 徐々に食が細くなること
もあれば, ある日突然食べられなくなるこ
ともあります. 十分に食べることが出来
なければ, 体力が低下し健康が損なわれ
てしまうこともあります. また急激な体
重減少(特に6~12カ月以内に5%以上の体重減少)を認める場
合は,なんらかの病気が存在しているかもしれません.
いっぽうで, 高齢者の食欲不振は,原因を特定しにくいことが
多いとされています. それでは、食欲不振の原因にはどのような
ものがあるでしょうか?
■ すべての年代で起こりうる食欲不振の原因
疾病要因.
・消化管の病気
胃腸の病気(炎症性疾患,便秘,
肝疾患,癌通過障害)など.
・心臓や肺の病気
低酸素血症に伴う呼吸中枢の刺激
末梢からの迷走神経刺激など.
・脳の病気
脳圧亢進など.
・腎臓の病気
尿毒症,代謝性アシドーシス,電解質異常など.
・内分泌系の病気
甲状腺機能低下症, 副腎機能不全など.
■ 飲んでいる薬の副作用
・強心薬(ジギタリス中毒)
・気管支拡張薬(アミノフィリン中毒)
・認知症薬(ドネペジル)
・痛み止め(NSAIDs)
・抗うつ薬(SSRI)
・貧血薬(鉄剤)
・骨粗鬆症薬(カルシウム・ビタミンD製剤など)
・健康食品やサプリメントの過量摂取
→ 止められない場合が多い
■ 社会的要因
・独居や老老介護のため、食事の買い
物や料理のサポートが不足してる.
→ サポート体制が整えば食べられ
るようになる.
■ 精神的・心理的な要因
・認知機能の低下により、満腹感が継続し食欲の
低下・消失をおこす.
・変化のない生活や閉じこもりによる精神的不安
定さから、食欲の低下・消失をおこす.
■ 生理的な要因
運動不足や睡眠不足
・不規則な生活習慣により, 消化機能
が低下し食欲の低下,消失をおこす.
味覚の低下
・亜鉛不足などより味覚が低下し, 特に
塩味や甘味の感覚が鈍くなり,濃い味付けを好むようにる.
味覚の低下が好みの変化につながり,食欲の低下・消失をお
こす.
口腔内の状態の悪化
・入れ歯の不具合, 口腔内の乾燥や荒れ,歯肉の腫れなど口腔
内の状態の悪化により,痛みなどが生じ食欲の低下・消失をお
こす.
便 秘
・噛む力が弱くなり,柔らかいものを好んで食べるようになる.
その結果栄養バランスが偏り,食物繊維不足による便秘など
に続き食欲の低下・消失をおこす.
宿 酔
・高齢になるほど血中アルコール濃度が上昇しやすくなり,
酒に弱くなる. 若い頃と同じように飲酒を続けると宿酔(二
日酔い)が続き,食欲の低下・消失をおこす.
上手に飲み込めない・誤嚥
・のみこみ動作(嚥下)に問題があるために,食欲の低下・消
失をおこす.
反復唾液嚥下テスト(RSST)
・嚥下障害の簡易試験です.
中指でのど仏(甲状軟骨)を、人差し指で舌骨を触知します.
唾を飲み込んだとき“のど仏“が指をしっかり越えたら一回と
カウントします. 動いただけではカウントしません.
30秒間に何回飲み込めるか数えます.
‣ 1~2回の場合 :上手に飲み込めていない可能性が高い.
‣ 3回以上の場合 :上手に飲み込めている可能性が高い.
(ただし認知症の方は、やり方の理解ができていない
可能性があります)
■ 食欲不振に遭遇した場合の考え方
高齢者の食欲不振に遭遇した場合, 上述のごとく消化管疾患, 心疾患, 肺疾患, 内分泌疾患などの病態とともに, 加齢の存在を無視できません. 近年の検査・治療の進歩には目を見張るものがあります. いっぽうで高齢者は体力の低下や認知症を伴っていることが多く, 検査や治療に難渋することがあります. 検査や治療の利点や欠点を理解してた上で, 可能な限り本人の意思を確認し, 家族と相談しながら方針を決定していくことが重要です.
■ 高齢者の食欲不振に対する方針
健康状態に問題ない場合.
・疾病要因を検索するために, 積極的に
検査をします.
・内視鏡、カテーテルなど侵襲を伴う検査
も視野に入れます.
健康状態に問題がある場合.
・ 負担にならない範囲内で検査します.
(レントゲン・血液検査・心電図・
尿検査など).
・ 感染症(呼吸器感染,消化管感染,
尿路感染など)が原因の場合、適切な
抗菌薬の使用ですみやかに食欲が改善
する事があり,積極的に介入します.
・ 感染症が否定され疾病要因が考えられ
た場合は,ご本人や家族と相談の上で,注意深い経過観察と
する事もあります.
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