■ ベーカー嚢腫(膝窩嚢腫)
膝関節の滑液包とは
❑ 膝関節周囲には、10数個の小さい袋(滑液包;bursa)が複数あります。
滑液包には、関節液(滑液)という関節の動きを円滑にさせる液体が入っ
ています。
❑ 滑液包は、緩衝材(クッション)として働き、腱・骨・靱帯や皮膚の摩擦
・摩耗・損傷・断裂を防ぎます。
❑ 膝窩部(膝の関節腔の後方)に存在する滑液包は、他の滑液包とは異なり、
膝関節と連絡していることが多く、成人になるにつれて膝関節腔と交通す
る頻度が多いとされています。[Herman AM, et al : Popliteal cysts : 2014]
■ ベーカー嚢腫の種類
1887年Bakerにより、結核菌による膝関節炎に伴う膿瘍として報告された
とされています。しかし現在では、炎症にともなう嚢腫をさします。
◇ 膝関節腔と滑液包が交通している場合
❑ 関節疾患の悪化により、関節液(滑液)の分泌量が増えると、近傍にある
滑液包内に滑液が流入していきます。
❑ 原因となりうる関節疾患 : 変形性膝関節症、関節リウマチ、半月損傷、
痛風、ランニング、体重増加、など
❑ 関節内から滑液包内に流入した滑液は、逆方向には戻りにくく、徐々に増
大し嚢腫として触知されるようになります。
❑ 関節疾患が改善し、関節内の余剰な液体は吸収されても、嚢腫内の滑液は
残留することが多いとされます。
◇ 膝関節腔と滑液包が交通していない場合
❑ 滑液包部(皮膚・筋肉・腱・靭帯などと骨が摩擦を生む部位)に過剰な摩
擦や圧迫がおこると、炎症が起こり滑液包に水がたまり、嚢腫となります。
❑ 過剰な刺激として、ランニング、サイクリング、体重増加、などがあげら
れます。
❑ 小児は、膝関節腔と滑液包が交通していないことが多いとされています。
■ ベーカー嚢腫の症状
➢ 違和感・こわばり・緊満感
➢ 膝窩部のやや内側が膨らむ(ぷよぷよした感じ)・圧迫感
➢ 膝を伸ばすと硬くなり、曲げると柔らかくなる(Foucher’s sign)
➢ 押しても痛みがない
➢ 膝の可動域制限(曲げにくい)
➢ 周囲の神経や血管を圧迫(しびれ、むくみ)
➢ まれに嚢胞破裂(痛み、腫れ、静脈炎、皮下出血を合併)
➢ 下腿後面に巨大な嚢腫を形成(calf cyst)
■ ベーカー嚢腫の検査
❑ 超音波検査
❑ MRI検査
■ ベーカー嚢腫の治療
◇ 経過観察
❑ 日常生活では膝に負担の掛かりにくい歩き方や姿勢を
保ちます。
◇ 保存的治療
❑ ベーカー嚢腫穿刺吸引+関節内ステロイド注射(穿刺吸引後に、数日で
再発することがあります)。
❑ 日常生活に支障をきたすなら、湿布・内服薬を使用します。
◇ 手術療法
❑ 保存的療法が効果ない場合は、ベーカー嚢腫が巨大で
神経や血管を圧迫する場合、穿刺後に再発を繰り返す
場合は、手術によって嚢腫を摘出する方法を選択しま
す。しかし、完全に取り除くことは難しく、術後再発
の可能性があります。
◇ 再発予防法
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❑ 膝関節内の滑液貯留が継続的にみられる人は、原疾患の治療。
➢ 変形性膝関節症
➢ 関節リウマチ
➢ 半月損傷
➢ 痛風
➢ ランニング
➢ 体重増加など
❑ 大腿四頭筋の筋力強化(膝関節の保護)。
❑ ハムストリングのストレッチ(筋肉間にある滑液
包の摩擦低減)。
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