■ 慢性甲状腺炎(橋本病)

❑ 自己免疫性甲状腺炎(原因不明で、甲状腺に慢性炎
症が起こる病気)です。慢性的に炎症が続くと、甲
状腺組織が破壊され、甲状腺機能低下症を発症しま
す(甲状腺ホルモンの産生が低下します)。
❑ 女性の3~10%に認められます。
(男:女=1:20~30)
❑ 慢性甲状腺炎の10~30%に甲状腺機能低下症を合併します
❑ 原発性甲状腺機能低下症の原因90%以上が、慢性甲状腺
炎(橋本病)と考えられています。
甲状腺機能低下症の原因となる疾患 |
・慢性甲状腺炎(橋本病)
・甲状腺術後
・放射性ヨード治療後
・亜急性甲状腺炎の経過中
・無痛性甲状腺炎の経過中
・下垂体性甲状腺機能低下症
・視床下部性甲状腺機能低下症
・先天性甲状腺機能低下症
・ヨウ素の過量摂取 |

❑ ヨウ素の過量摂取による甲状腺機能低下症
※)Wolff-chaikoff現象 : ヨウ素の過量摂取(
昆布の食べすぎやイソジン等のうがい薬の使用
)により、甲状腺のヨウ素取り込み量が低下し
、甲状腺ホルモンの合成が低下します。
❑ 甲状腺機能低下症を起こす可能性がある薬
✔ アミオダロン : 不整脈治療薬。
✔ インターフェロン製剤 : ウイルス感染症やがん治療薬。
✔ 免疫チェックポイント阻害薬:がん治療薬。
✔ チロシンキナーゼ阻害薬:がん治療薬。
✔ ヨウ素含有製剤:造影剤やうがい薬。
✔ リチウム製剤:躁うつ病の治療薬剤。
✔ 抗てんかん薬の一部。
✔ 鉄剤/アルミニウム含有制酸剤:甲状腺ホルモン薬の吸収阻害。
■ 甲状腺機能低下症をともなう場合
❑ 甲状腺機能低下症をともなう場合 : 全身の代謝が低下し、以下のような
症状が現れることがあります。
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むくみ |
皮膚症状
乾 燥
脱 毛 |
寒がり |
食欲低下
体重増加
便 秘 |
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徐 脈
血圧低下 |
無気力
倦怠感 |
月経の異常 |
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甲状腺機能低下症と同様の症状をおこしうる他の病気 |
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多彩な症状 |
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自律神経失調症や更年期障害者 |
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だるさや無気力 |
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うつ病
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動悸や息切れ |
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心臓病 |
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むくみ |
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腎臓病 |
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物忘れなど |
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認知症 |
■ 慢性甲状腺炎(橋本病)の診断
【 確定診断 】
✔ 「バセドウ病」の否定
✔ 「臨床所見」 および 「検査所見」の一つ以上があれば確定 |

【臨床所見】
▣ 甲状腺の腫大(首の腫れ)
▣ 甲状腺の萎縮

【検査所見】
▣ 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb): 陽性
(甲状腺の蛋白成分にたいする自己抗体)
▣ 抗サイログロブリン抗体(TgAb) : 陽性
(甲状腺の蛋白成分にたいする自己抗体)
▣ 細胞診でリンパ球浸潤 : 陽性
【 疑い例 】
✔ 「甲状腺機能異常や甲状腺腫大は認められないが、TPOAbまたは
TgAbが陽性の場合
✔ 原因不明の原発性甲状腺機能低下症
✔ 臨床所見および甲状腺超音波検査で、内部エコーの低下や不均一を認める |
【付記】
✓ 阻害型抗TSH受容体抗体などにより萎縮性になることがあります。
✓ 甲状腺リンパ腫はまれな疾患ですが、慢性リンパ球性甲状腺炎(橋本病)
を背景として発生するため、鑑別が必要です。
■ 橋本病の治療
◇甲状腺機能が正常~軽度低下の場合



❑ 無症状であれば、治療の必要はありません。
◇甲状腺機能低下がある場合

❑ 甲状腺ホルモン(合成T4製剤)補充を開始します。
◇ヨード過剰が疑われる場合


❑ ヨウ素の摂取制限が必要です。
❑ ヨウ素の1日の推奨量
✔ 18歳以上 : 推奨量140㎍。 耐容上限量3,000㎍
✔ 妊婦及び授乳婦 : 耐容上限量は、2,000µg/日
※「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」より
◇18歳以上


推奨量140㎍。 耐容上限量3,000㎍
◇妊婦及び授乳婦


耐容上限量は、2,000µg/日
◇ 日常生活


制限はありません。
◇甲状腺ホルモン(合成T4製剤)



❑ 体内の甲状腺ホルモンと同成分であり、妊娠中や授乳
中でも使用できます。内服中は、定期的に体内の甲状
腺ホルモンの値を測定しましょう。
❑ 甲状腺ホルモン薬(合成T4製剤)の半減期は約1週間
であり、多少の服薬時間のズレでは、血中濃度の変化
はありません。
❑ 併用注意
✔ 鉄剤(貧血治療)は、甲状腺ホルモン薬の吸収を妨げるため、2時間
以上ずらすことを勧めします。
✔ コーヒーは、甲状腺ホルモン薬の吸収を妨げるため、2時間以上ずらす
ことを勧めします。
■ 潜在性甲状腺機能低下症
◇ FT4が正常、TSH高値



❑ 妊娠中、妊娠希望の女性は不妊/流早産のリスクが高く
、治療が必要です。
❑ 妊娠~妊娠15週
甲状腺ホルモンの必要量が約1.5倍に増えるため、妊
娠中は甲状腺ホルモン(合成T4製剤)補充を20~
30%増やす必要があります。
❑ 授乳中
甲状腺ホルモン(合成T4製剤)補充しながらの授乳は、問題ありません。
❑ 甲状腺刺激ホルモン(TSH)>10µU/ml以上
甲状腺ホルモン(合成T4製剤)補充を検討しましょう。
❑ 高コレステロール血症を伴う
甲状腺ホルモン(合成T4製剤)補充を検討します。
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