■ 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
◇非アルコール性とは
❑ 非アルコール性とは、「非飲酒」と「少量の飲酒」
の両方を含みます。
❑ 非飲酒者とは、全く飲酒をしない人をさします。
❑ 少量の飲酒とは、エタノール換算で男性30g/日,
女性20g/日以下の機会飲酒者をさします。
◇男性 30g/日とは
・ビール:750mL 以下
・日本酒:1合半 以下
・ワイン:グラス2杯半 以下
・ウイスキー:ダブルで1杯半 以下
◇女性 20g/日とは
・ビール:500mL 以下
・日本酒:1合 以下
・ワイン:グラス2杯 以下
・ウイスキー:ダブルで1杯 以下
◇特徴
❑ 生活習慣病の増加に伴い急増しており、検診受診者の30%程度に認められます。
❑ 内臓脂肪型肥満に好発し、男性では30歳代から,女性では閉経期以降に頻度が
増加します。発症前の数年間に3~5kg以上の体重増加のエピソードをもつこと
が多いとされています。したがって、メタボリックシンドロームの肝硬変と捉
えられています。
❑ 高血圧(130/85mmHg以上),脂質異常,耐糖能異常の合併が多いです。
❑ BMI>25が多く,BMI>30以上ならNASHの可能性も考慮します。
※)BMI(Body Mass Index):体重と身長から算出される体格指数です。
❑ 鑑別すべき疾患・原因
鑑別すべき疾患 |
ウイルス性肝炎(B/C型) |
B型肝炎、C型肝炎 |
アルコール性肝炎 |
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Wilson病 |
血清銅・血清セルロプラスミンの低下 |
自己免疫性肝炎 |
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薬物性肝障害 |
エストロゲン受容体拮抗剤 |
タモキシフェン,インスリン,グルココルチコイド |
テトラサイクリン系抗菌薬 |
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消炎鎮痛剤 |
アセトアミノフェン,アスピリン,ジクロフェナク,
ロキソプロフェン,など |
抗不整脈剤 |
アミオダロン |
心血管疾患 |
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抗がん剤 |
シクロスポリン |
健康食品 |
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サプリメント |
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■ NAFLDとNASH
❑ NAFLDは、NAFLとNASHに分類されます。
❑ NAFLDの80~90%は、「単純性脂肪肝(NAFL)」です。
❑ 肝発癌率
・NAFLD : 0.44人/1000人。
・NASH : 5.29人/1000人。
❑ NAFL(非アルコール性脂肪肝):NAFLDの80~90%です。無症状ですが、
肝細胞に脂肪が沈着しています。病態はほとんど進行しないと考えられてい
ます。しかし、一部で進行することがあります。
❑ NASH(非アルコール性脂肪肝炎):NAFLDの10~20%です。肝細胞が炎症
や線維化を伴い、肝硬変や肝癌の発生母地になります。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
❑ 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は1%を占めます。
❑ 基本病態はインスリン抵抗性と酸化ストレスによ
り、3~10年の間に30~50%の人で肝臓の線維
化が進むことがわかっています。その結果肝硬変
、肝不全、肝臓がんに進行(5.29人/1000人)す
る可能性があります。
❑ NASHの50%前後は、10年で肝硬変や肝臓癌に進行します。
❑ ほとんどが肥満を伴っており、脂肪肝の中で約10%の割合を占めます。
❑ 心疾患(狭心症や心筋梗塞) の発症がおよそ2倍になります。
❑ 自覚症状はありません。時に全身倦怠感,易疲労感,上腹部不快感等を認めます。
■ 検査所見
❑ AST・ALT:血清AST<ALTとなります。肝硬変に
進展したNASHではAST>ALTとなります。多く
はALT 200IU/l以下ですが、ALT 300IU/l以上に
上昇することもあります。
❑ γ-GTP,ALP
中等度上昇します。
❑ コレステロール・中性脂肪
NAFL(非アルコール性脂肪肝),NASHともに上昇します。
❑ 線維化マーカー(ヒアルロン酸やⅣ型コラーゲンなど
肝臓が線維化を伴うと上昇します。
❑ 血清フェリチン値
NAFLD/NASH の30~40%で上昇します。
❑ HOMA-IR〔インスリン抵抗性の指標〕
90%以上で高値を示します(ほとんどが3以上)。
※)HOMA-IR=12 時間絶食後血糖値(㎎/dl)×血中インスリン濃 度(μU/ml)/405
・HOMA-IR<1.6 : インスリン抵抗性なし
・HOMA-IR>2.5 : インスリン抵抗性あり
❑ 抗DNA抗体
患者の20%前後は40~160倍に上昇します。
❑ プロトロンビン時間
中等度上昇(多くは300IU/l以下)を認め,放置すると延長をきたします。
❑ コリンエステラーゼ
NAFL(単純性脂肪肝)は、アルコール性脂肪肝と異なり上昇することが多い。
❑ 血小板
15万/㎥以下を示す原因不明の慢性肝障害ではNASHを疑います。
❑ 遺伝子(「PNPLA3」など)
NAFLD/NASHの発症や進展に関係していることがわかってきました。
❑ 腹部超音波検査・CT
脂肪肝を確認します。
■ 食事療法
❑ 特異的な薬物療法はなく、いまだに食事運動療法を
中心とした生活習慣の改善が中心です
(NAFLD/NASH診療ガイドライン2020)。
❑ NAFLDの背景には肥満やインスリン抵抗性があり、
減量に加えて合併する糖尿病、高血圧や脂質異常に
対する治療を開始します。
❑ バランス良い食生活と軽い運動を行うことで、脂肪肝は改善されます。
・3%の減量:肝の脂肪化改善(35~100%の患者)。
・5%の減量:QOLの改善(41~100%の患者)。
・7%の減量:肝の炎症軽減(64~90%の患者)。
・10%の減量:肝線維化の改善(45%の患者)。
❑ 摂取総カロリー:25~35kcal/kg/日,蛋白質1.0~1.5g/kg/日,脂肪は総カロ
リーの20%以下とします。鉄分の過剰摂取は避けます。「NASH・NAFLDの
診療ガイド2020」
❑ 低脂肪と低炭水化物のどちらがいいか : 低炭水化物ダイエットは、より
早期から効果が出ますが、カロリーが抑えられれば最終的には同じす。
❑ BMI[体重(kg)÷(身長(m)の2乗)] : 25以下にしましょう。
❑ ウエストを、男性85cm以上、女性90cm以下にしましょう。
❑ とり過ぎに注意しましょう。
1)食べ過ぎ・清涼飲料水・缶コーヒー・果物。
2)動物性の油(ラードやバターなど)。
3)揚げも・炒めもの・卵を使用した料理など。
4)マーガリン・ショートニング(トランス脂肪酸)を用いた菓子パンや洋菓子。
5)健康食品・サプリメント・漢方薬:安易に長期間使用するのは危険です。
6)健康ドリンク:カロリーが高いものがあります。
❑ 多くとりましょう。
1)青魚(多価不飽和脂肪酸を多く含む)。
2)緑黄色野菜(ビタミンEを含む)
■ 薬物療法
NASHに対し様々な薬物療法の検討がありますが、長期
予後などに関するエビデンスに乏しく、評価は定まっ
ていません。また現時点で日本ではNAFLD/NASHに
有効な薬剤で保険適用されているものはありません。
◇糖尿病治療薬
❑ ピオグリタゾン
組織学的改善の可能性が示唆されています。
糖尿病合併例では改善が期待され、投与する
ことが推奨されています(日本で保険適応なし)。
❑ SGLT2阻害薬
短期間の報告が多く、長期的効果は不明です。
❑ インクレチン関連製剤
結果がまちまちであり、一定の結論には達していません。
◇脂質異常症治療薬
❑ スタチン系薬剤
改善の報告があります。
❑ エゼミチブ
十分な効果は認められていません。
◇高血圧治療薬
❑ ARBやACE阻害薬
肝線維化の改善や抑制が示唆されています。
◇抗酸化薬
❑ ビタミンE
肝線維化の進んだNASH患者の肝移植と肝不全
への移行を抑制します。また肝機能および肝
組織修復を促進するため、投与することが推奨
されています(日本で保険適応なし)。
◇瀉血療法
❑ 鉄過剰蓄積例に瀉血が有効かどうかは明らかでな
く、行われないことが提案されています。
◇その他の治療
NAFLD/NASHに対する特異的治療薬が開発が盛んにおこなわれており、臨床試験も進行中です。
FXRアゴニスト、FGF製剤、甲状腺ホルモンβ受容体作動薬、PPAR作動薬、ACCおよびDGAT2阻害薬、JNK阻害薬、ASK1阻害薬、C=Cケモカイン受容体阻害薬、Caspase阻害薬、LOLX2抗体、Galectin3阻害薬HSP47阻害薬、TLR4拮抗薬など。現在まで期待できる
効果はられていません。
◇運動療法
❑ 週3~4回、30~60分の有酸素運動(ウォーキング
やジョギング、水泳など)が、NAFLD/ NASHの
病態を改善させることが報告されています。
❑ 筋肉トレーニングやヨガなどの運動(関節に負担
をかけない程度)も、筋肉量が増加し基礎代謝も
高まるので、さらに効果的です。
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