■ 夜間頻尿 night urination
夜間頻尿とは
❑ 夜間頻尿は多くの高齢者を悩ませる尿症状です。
❑ 夜間2回以上で、生活に支障(睡眠障害、転倒な
ど)を来すと言われています。
❑ 加齢とともに増加し,生活の質(QOL)を低下さ
せます。
❑ 高齢者では、夜間排尿回数2回以上で骨折発生率
と死亡率が上昇する可能性があります(夜間頻尿
と転倒リスクは相関)。
■ 夜間頻尿の原因
◇ 夜間多尿
❑ 夜間睡眠時の尿量のみが多い
➢夜間多尿指数(夜間尿量/24 時間尿量)×100%〕
a. 33% を超える(65 歳以上)
b. 20% を超える(若年者)
➢「夜間の1回排尿は通常の量が出る」 ➢「昼間はむしろトイレに行かず夜間にだけ行く」
➢「夜間尿量が700mL以上である」
◇ 膀胱蓄尿障害
❑ 「膀胱容量が低下」あるいは/かつ「機能的膀胱容量(最大1回排尿量)が
低下」
❑ 過活動膀胱,間質性膀胱炎・膀胱痛症候群,前立腺肥大症,前立腺癌,女性
においては骨盤臓器脱などが原因となります。
❑ 昼夜ともに排尿回数が増加します。
❑ 明確な診断基準は確立されていませんが,1日排尿回数が8回以上、多尿を
認めず、機能的膀胱容量が250~300mL以下、平均排尿量が150~200mL
以下などが認められ,尿意切迫感や尿失禁があれば強く疑います。
◇ 過活動膀胱(OAB)
❑ 頻尿と夜間頻尿を伴います。 発症メカニズムは解明
されおらず、多因子が関与しています。
◇ 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(IC/BPS)
❑ 蓄尿時に強い膀胱痛・会陰部痛、尿意切迫感、不快感,尿意亢進や頻尿が
あり、排尿後に軽減・消失することが多いです。
❑ 原因不明の疾患であり、治癒が困難です (75%に夜間2回以上の夜間頻尿
を認めます)。
◇ 前立腺肥大症(BPH)
❑ 機能的膀胱容量の減少し、残尿量が増加します。
◇ 骨盤臓器脱(POP)
❑ 昼間/夜間頻尿,切迫性/腹圧性尿失禁,排尿困難などのを伴う場合が多く
生活の質(QOL)に影響を与えます。
◇ 睡眠障害
❑ 夜間頻尿と相互に関係し悪循環をきたします。
❑ 睡眠導入薬の口内乾燥 (抗コリン作用)による飲
水過多により、夜間多尿を引き起こすことがあり
ます。
◇ 高血圧症
❑ 夜間頻尿患者の合併率が2倍とされています。
❑ カルシウム括抗薬 : 浮腫(副作用)により、
夜間静脈還流増加が引き起こされ,夜間に塩分排
泄のための夜間多尿・頻尿が増加すると考えられ
ています。塩分摂取制限を行うことで夜間尿量の
減少が期待されます。
❑ 塩分過剰摂取(1日塩分摂取量が12g超)になると、
夜までにナトリウムが排出しきれず,夜間多尿(ナトリウム利尿が持続)の
一因とされています。
❑ サイアザイド系利尿薬の投与が,夜間多尿・頻尿に対する新しいアプロー
チと考えられています。
❑ 降庄薬3剤以上の使用は、夜間多尿に影響するという報告があります。
◇ 骨盤臓器脱(POP)
❑ 昼間/夜間頻尿,切迫性/腹圧性尿失禁,排尿困難などのを伴う場合が多く,
生活の質(QOL)に影響を与えます。
◇ 食事習慣
❑ 塩分過剰摂取(1日塩分摂取量が12g超)により、
日中に体内のナトリウムが排出しきれず,夜間多
尿(ナトリウム利尿が持続)となります(塩分摂取
制限を行うことで夜間尿量の減少が期待)。
◇ 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
❑ 睡眠障害や心拍出量増加(うっ血)により、夜間
多尿を引き起こすことがあります。
◇ 心不全
❑ 臥床により、下肢浮腫の水分が心臓に潅流し、夜
間多尿の一因となります。
❑ NT-proBNP=1200pg/㎖以上の場合は、心不全の精査を推奨します。
◇ 糖尿病
❑ 夜間頻尿を伴うリスクは、1.49倍との報告があ
ります。
❑ 高齢者では夜間頻尿、過活動膀胱、尿失禁などの
排尿障害を合併しやすいとされています。
❑ 糖尿病治療薬( SGLT2)は夜間頻尿の一因とな
ります。
➢短時間作用型(デベルザ®、アプルウェイ®):夜間まで影響しな
いので、推奨されます(消失半減期=5.40時間)。
➢長時間作用型(スーグラ® ):夜間まで影響し、夜間頻尿の一因とな
ります(消失半減期=14.97時間)。
■ 夜間頻尿の行動療法
◇ 飲水
❑ 夕食以降はアルコール・カフェイン摂取を避ける
❑ 就寝前3~4時間アルコールやカフェイン類(コ
ーヒー、紅茶、日本茶、炭酸飲料など)は避けま
しょう。
❑ 1日飲水量の目安は、体重の約2%程度(体重
60kgの患者だと1,200㎖/日)。
◇ 塩分制限
❑ 6g以下が推奨
❑ 塩分制限により夜間排尿回数,夜間尿量は減少す
る可能性あり。
❑ 塩分過剰摂取(1日塩分摂取量が12g超)になる
と、日中ナトリウムが排出しきれず,夜間多尿の
一因とまります。
◇ 体重減少
❑ 体重減少:夜間頻尿を減らす可能性あり。
❑ 飲水制限ほど食事指導の有用性に関する研究は認
められていません。
◇ カリウム制限
❑ 昼間にナトリウムが排泄され、夜間のナトリウム利尿が減少する可能性が
あります。
◇ 禁煙
❑ 禁煙が夜間多尿/頻尿に及ぼす効果についての詳
細は不明。
❑ 就寝前1時間、中途覚醒時の喫煙は避けましょう
◇ 下肢挙上
❑ 下肢挙上しての昼寝(30分以内)、弾性ストッキングの着用などの、下肢
浮腫対策により夜間頻尿が改善します。
◇ 日光浴
❑ 日常生活動作が低下し運動療法など不可能な場合
に推奨
❑ 時計遺伝子の関係で,日光に当たると夜間頻尿が
改善する可能性があります。
◇ 利尿剤
❑ 利尿剤の効果は8時間程度であり、遅くとも15時までに内服するのをお勧め
します。
◇ 運動療法
❑ 運動療法(散歩,ダンベル運動,スクワット等)
❑ 夕方から就寝前までに30分程度の歩行運動により
日中に下肢に移動した体水分を血管内に戻し,筋
肉のポンプ作用によって静脈還流を促し,就寝前
までの尿量増加を促すことにより夜間の尿産生の
減少が期待できます。また発汗作用やストレス軽減
作用により、催眠作用を高めます。
■ 前立腺肥大を合併する夜間頻尿の薬物治療
❑ 前立腺肥大症(BPH)は、排尿症状、蓄尿症状を高率に合併し,その50~70
%に過活動膀胱(OAB)を合併するとされています。
前立腺が大きい場合や、
α1受容体遮断薬による治療で効果が不十分な場合には、α1受容体遮断薬と
5α還元酵素阻害薬が併用されることもあります。
◇ α1受容体遮断薬
❑ 膀胱頚部と前立腺部尿道に作用します。
❑ 締め付けられている尿道を広げ、尿の出具合を改善
します。
➢シロドシン(ユリーフ®)
➢タムスロシン(ハルナール®)
➢ナフトピジル(フリバス®)
◇ PDE5阻害薬
❑ BPHに伴う下部尿路症状を改善します。
❑ 夜間頻尿の改善度は低く,臨床的意義は小さいとされています。
❑ 併用禁忌;硝酸薬。
➢タグラフイル(ザルティア®)
◇ 5α還元酵素阻害薬
❑ 前立腺内でのテストステロン活性化に必要な5α還元酵
素を阻害し、前立腺を縮小させます。
❑ α1遮断薬で効果不十分であり、前立腺体積が大きい場
合に適応されます。
❑ α1遮断薬と5α還元酵素阻害薬併用による改善の報告が
ありますが、効果発現に約6か月の時間をします。
❑ 性機能障害やPSA値の解釈に注意が必要です。
❑ 非常に大きな前立腺(60㎖以上)、症状が重症、残尿
が高度な場合は,当初からα1 遮断薬と 5α還元酵素阻
害薬の併用療法を行うと有用です。
➢デュタステリド(アボルブ®)
■ 過活動膀胱を合併する夜間頻尿の薬物治療
❑ 抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬を使用します(併用も可能)。
◇ 抗コリン薬
❑ 膀胱が勝手に収縮するのを抑える薬です。
❑ 副作用 : 口渇、便秘、尿閉、眼圧上昇、心悸
亢進(頻脈) 等。
➢ソリフェナシン(ベシケア®)
朝食後/夕食後どちらでも夜間頻尿は改善。
➢イミダフェナシン(ウリトス®)
夜間頻尿に関するエビデンスが最も多い。半減期が約3時間程度であり
就寝前や夕の内服のみでも効果的です。
➢フェソテロジン(トビエース®)
夜間排尿回数を有意に減少します(デトルシトールのプロドラッグ)。
➢トルテロジン(デトルシトール®)
夜間内服(就寝前4時間以内)をお勧めします。
➢プロピベリン(バップフォー®)
➢オキシプチニン経皮吸収製剤(ネオキシテープ○R)
➢オキシプチニン(ポラキス®)
◇ β3アドレナリン受容体作動薬
❑ 蓄尿期には交感神経が優位に活動し,膀胱平滑筋
のβアドレナリン受容体を介して膀胱を弛めて尿
を貯める機能を高める薬です。
❑ 抗コリン作用による副作用は、ほぼありません。
❑ 循環器系に対する安全性も示されています。
❑ 高齢者で抗コリン負荷による認知機能障害の心配
なく,高齢者では第一選択になることが多い。
❑ 副作用 : 便秘、口渇、腹部不快感、循環器症
状(動悸、血圧上昇)を時に認めます。
❑ 併用禁忌薬はありません。
➢ミラベグロン(ベタニス®)
高齢OAB患者への投与は有用です。
➢ビペグロン(べオーバ®)
肝機能や腎機能障害による用量調節が不要です。
■ その他 夜間頻尿の薬物治療
◇ デスモプレシン
❑ 日本では男性のみ適応です。当院では処方しておりません。
❑ 女性は、適応外です。
❑ 心不全/コントロール不良な高血圧/CKD/SAS等なく、排尿日誌により夜間
多尿が確認された場合に適応です。
❑ 高齢者は25μgから開始するのが望ましいとされています。
❑ 高齢者は低 Na 血症,頭痛などの有害事象も懸念されます。重篤例は少ない
が,経過観察が必要です。
[禁忌] ・腎機能低下(CCr50mL/分未満) ・低Na血症 ・心因性習慣性多飲症 ・心不全
・利尿薬投与中(併用禁忌)
・ステロイド投与中の患者(内服薬や吸入剤も含む)
◇ 利尿剤
❑ 夜間頻尿が改善する可能性はあります。
❑ 15時前後に服用し,日中に溜まった水分を出します(利尿剤の効果は8時間
程度です)。
◇ COX阻害薬
❑ 保険適用外であり,胃腸、腎、血小板、心血管障害などの有害事象も懸念さ
れます。
◇ 代替療法(サプリメントや漢方薬)
❑ 亜鉛,リコピン,ビタミン D,ビタミ ン C,イソ
フラボン,ノコギリヤシ、ビタミン C,ビタミン
D,ハーブ,グルタミン、セルニチン,ノコギリ
ヤシ,β-シトステ ロール,ビタミン Eなど
❑ 大規模 RCT で裏付けられたものはなく,効果に
一貫性がありません。。摂取量も明確でなく、有
害事象も報告されており、推奨にはいたりません。
■ 睡眠障害を合併する夜間頻尿の薬物治療
❑ 睡眠の専門医受診を推奨します。
◇ ベンゾジアゼピン受容体作動薬
❑ 副作用;抗不安作用や,ふらつきや転倒
❑ 重症筋無力症,急性閉塞隅角緑内障の患者には使用禁忌。
◇ メラトニン受容体作動薬
❑ メラトニンは、日光を浴びてから約15時間後に分泌され、睡眠リズムを
調節します(体内時計のリズムを整えます)。
➢ラメルテオン(ロゼレム®)
不眠改善/夜間排尿量の減少、夜間膀胱容量の増加が報告されており、
夜間頻尿を伴う不眠症に適してます。また、転倒や依存のリスは少な
いとされています。
◇ オレキシン受容体括抗薬
❑ 覚醒維持/睡眠への移行に関与し、中枢神経覚醒系を抑制します。
➢レンボレキサント(デエビゴ®)
投与後の排尿回数の改善効果も報告されており、入眠困難と中途覚醒に
有効です。
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