■ 微量元素欠乏症(Trace element Deficiency)
微量元素とは
人間が生命活動を維持していくのに必要な栄養素は5
種類あります。そのうち大量に消費される炭水化物
,脂質,蛋白質を「三大栄養素」と呼びます。
これらに微量元素(ビタミン,ミネラル)を併せて
「五大栄養素」と呼びます。
五
大
栄
養
素
|
三
大
栄
養
素
|
蛋白質 |
脂質 |
炭水化物 |
微
量
栄
養
素
|
ビタミン |
ミ
ネ
ラ
ル
|
主要ミネラル
(macrominera)
|
ナトリウム、カリウム、塩素、カルシウム、
リン、マグネシウム、硫黄 |
微量ミネラル
(micromineral) |
鉄、亜鉛、銅、クロム、ヨウ素、コバルト、
セレン、マンガン、モリブデン、 |
微量ミネラルとは
❑ 微量元素とは,体の機能を正常に働かせるのに必須とされるミネラル(16
種類)であり、1日の必要量がおよそ100mg以上の「主要ミネラル」と、
100mp未満の「微量ミネラル」に分類されます。一般的な食生活をして
いれば、欠乏する事はありませんが、偏食・ダイエットなど偏った食事を
すると、欠乏することがあります。
❑ 微量ミネラル : 身体の中にわずかしか存在しません(体重の0.02%)。
しかし、体の機能を正常に働かせるのに大切な役割をしています。一般的
な食生活をしていれば、欠乏する事はありませんが、偏食・ダイエットな
ど偏った食事をすると、欠乏することがあります。
❑ 高齢者の不定愁訴の原因として、ミネラルの不足も考えておく必要があります。
検査の保険適応は
|
微量ミネラル |
基準値 |
保険適応の条件 |
保険適応あり |
亜鉛 |
80~130㎍/㎗ |
特記事項なし |
鉄 |
男性:54~200㎍/㎗
女性:48~154㎍/㎗ |
特記事項なし |
銅 |
68~128㎍/㎗ |
特記事項なし |
マンガン |
0.8~2.5㎍/㎗ |
高カロリー輸液中など |
セレン |
10㎍/㎗以下 |
高カロリー輸液中など |
保険適応なし |
ヨウ素 |
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自費診療 |
コバルト |
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自費診療 |
モリブテン |
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自費診療 |
クロム |
血液:1㎍/㎗以下
尿 :2㎍/㎗以下 |
自費診療 |
■ 亜鉛
❑ 我が国の亜鉛欠乏症の発症率は、15~25%と先進国の中
では最も高いとされています。
❑ 亜鉛の働きは、①身長の伸び(小児)、②皮膚代謝、③生
殖機能(特に男性)、④骨格の発育、⑤味覚の維持、⑥精
神・行動への影響、⑦免疫機能などに関与しています。
❑ アルコール代謝などの酵素活性に関わっており、 遺伝子複製でも重要な
元素です。
❑ 他の微量ミネラルは、欠乏から発症まで6~12ヶ月かかりますが、亜鉛
は早ければ14日で欠乏症状を来すことがあります。
亜鉛欠乏症の診断基準(日臨栄会誌2018;40:120-167) |
1.
下記の症状/検査所見の1項目以上を満たす |
1)臨床症状・所見 |
皮膚炎,口内炎,脱毛症,褥瘡(難治性),発育障害(体重増加
不良,低身長),性腺機能不全,易感染性,味覚障害,貧血,不
妊症,食欲低下 |
2) 検査所見
|
ALP低値 |
注:肝疾患,骨粗鬆症,慢性腎不全,糖尿病,うっ血性心不全などでは亜鉛欠乏であ
っても低値を示さないことがある
|
2.上記症状の原因となる他疾患が否定される |
3.血清亜鉛値 |
3-1:60㎍/㎗:亜鉛欠乏症
3-2:60~80㎍/㎗未満:潜在性亜鉛欠乏症
|
血清亜鉛値は,早朝空腹時に測定することが望ましい(午後や食後は低下する) |
4.亜鉛を補充することにより症状が改善する |
Definite(確定診断):上記項目の1,2,3-1,4をすべて満たす場合を亜鉛欠乏症と診断する
上記項目1,2,3-2,4をすべて満たす場合を潜在性亜鉛欠乏症と診断する
Probable:亜鉛補充前に1~3を満たすもの。亜鉛補充療法の適応となる。
|
過剰症状
❑ 嘔気、嘔吐、腹痛、銅・鉄欠乏による貧血(腸管からの
吸収抑制)、胃障害や免疫障害、神経症状、銅や鉄の吸
収を障害します。
欠乏症状
❑ 皮膚炎(口・鼻・臀部・四肢末端)、カンジダ皮膚炎、
口内炎、舌炎、うつ、下痢、体重増加不良、腹痛、味
覚障害、性腺機能不全(特に男性の性欲減退・精子数の
減少)、発育障害(体重増加不良や低身長)、脱毛、骨
粗鬆症、易感染性(免疫機能低下)、妊娠異常、貧血
(正球性および小球性貧血)、情緒不安定など。
❑ 長期服用により亜鉛欠乏を起こしうる薬剤 :
Dペニシラミン(関節リウマチ)、Lドーパ(パーキンソン病)、炭酸リチウム
イミブラン(うつ病)、インドメタシン、酢酸フルラゼパン(不眠)、 ビグア
ナイド(糖尿病)、メチマゾール(甲状腺機能亢進症)、 アロプリノール(高
尿酸血症)、アザチオプリン(自己免疫疾患)、カルバマゼピン(てんかん)
❑ 皮膚炎は数日で改善しますが、味覚障害は数か月かかる場合があります。
含有量の多い食材
❑ 牡蠣、肉類のレバー、牛肉、ウナギ、米、 豆腐、パルメザンチーズ、ココ
ア、カシューナッツ、ゴマ、味噌など。 具体的な食品名や含有量は、
「亜鉛欠乏症の診療指針2018」 を参照してください。
■ 銅
❑ 多くの食材に含まれており、通常の食事をしていれば不
足することはありません。
❑ 亜鉛の過剰摂取で、銅の吸収が阻害されます。
❑ 鉄の吸収や貯蔵に関与し、造血に貢献します。また骨代
謝機能にも関与しています。
❑ 遺伝病や高カロリー輸液などで欠乏します。
❑ 胆汁を介して排出されます。
過剰症状
嘔気、嘔吐、下痢、黄疸、血尿、乏尿、低血圧など。
欠乏症状
貧血、白血球減少、骨病変、成長障害、筋緊張低下など。
含有量の多い食材
タコ、カニ、エビ、牡蠣、牛レバー、アーモンド、小豆、ピュアココア、大豆、
ソラマメ、チョコレート。
■ クロム
❑ 糖質や資質の代謝に関与し、糖尿病を予防する役割があり
ます。
❑ 認知機能の改善を認めた研究もあります。
過剰症状
嘔気、消化管潰瘍、中枢神経障害など。
欠乏症状
耐糖能異常,脂質異常症,末梢神経障害,体重減少など。
含有量の多い食材
未精製の穀物,牛肉,豚肉,鶏肉,レバー,アナゴ,ホタテ,牡蠣,ナッツ,
豆類,キノコ,ココア,パルメザンチーズ,蕎麦。
■ セレン
❑ 抗酸化酵素の合成に不可欠です。
❑ 穀物から肉類まで広く含まれており、炎症性腸疾患など
ない限りは、セレン欠乏症になる可能性は低いとされて
います。
セレン欠乏症の診断基準
|
1.下記の症状/検査所見のうち1項目井所を満たす |
1)爪・皮膚 |
爪白色化、爪変形、皮膚炎、脱毛、毛髪の変色 |
2)心筋障害 |
心筋症、虚血性心疾患、不整脈、頻脈 |
3)筋症状 |
下肢の筋肉痛、筋力低下、歩行困難 |
4)血液症状 |
赤血球の大球性変化、大球性貧血 |
5)検査所見 |
3低下、AST・ALT上昇、CPK上昇 |
6)心電図変化 |
ST低下、T波陰転化 |
2. 上記症状の原因となる他の疾患が否定される
|
3. 血清セレン値 |
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年齢 |
血清セレン値(㎍/dl) |
0~5歳 |
≦6.0 |
0~14歳 |
≦7.0 |
15~18歳 |
≦8.0 |
19歳~ |
≦10.0 |
4. セレンを補充することにより症状が改善する
|
Definite(確定診断):上記項目の1~4をすべて満たすもの
Probable:セレン補充前に1~3を満たすもの。セレン補充療法の適応となる。 |
セレン欠乏症の診療指針
過剰症状
脱毛、中枢神経障害。過去には、過剰投与による死亡事案
を含む有害事象が報告されており、サプリメントなどによ
る過剰摂取には注意が必要です。
欠乏症状
四肢の筋肉痛や筋力低下(近位側優位)、心筋症、爪の白色
化、心筋梗塞、がん、中枢神経障害、毛髪変化(茶褐色化・
巻毛・脱毛)、視力障害、男性不妊、シミなど。
含有量の多い食材
ワカサギ、カツオ、ホタテ、ウニ、イワシ、ネギ、卵黄、肉類
■ マンガン
❑ 抗酸化作用、骨代謝、糖代謝、脂質代謝、生殖能、免疫
能に関与しています。
❑ 必要量はわずかであり、通常の食事で不足することは起
きにくい。
❑ 胆汁を介して排出されます。
過剰症状
脳内蓄積によるパーキンソン症候群など。
欠乏症状
低コレステロール血症、体重減少、血液凝固異常、
骨粗鬆症など。
含有量の多い食材
海苔、キクラゲ、生姜、干しエビ、エゴマ、アーモンド、シジミ、干し柿 。
■ モリブテン
❑ 老廃物の排出を促すことで、アミノ酸代謝、尿酸代謝に関
与しています。
❑ 鉄の吸収を助ける作用があります。
過剰症状
高尿酸血症など。
欠乏症状
頻脈、頭痛、過呼吸、夜盲症、視野暗点、易刺激性、昏睡、
失見当識など。
含有量の多い食材
レバー、乳製品、豆類、種実類、穀物など。
■ コバルト
❑ ビタミンB12の構成成分で、造血時に鉄の吸収を促進する
働きがあります。
❑ 厳格なベジタリアンでは不足する可能性があります。
❑ 胆汁を介して排出されます。
欠乏症状
悪性貧血、食欲低下、消化不良、手足のしびれ、神経障害、
集中力の低下、筋肉の萎縮など。
含有量の多い食材
肉類、レバー、魚類、乳製品、納豆・もやし(植物性食品) 。
■ヨウ素
❑ ヨウ素の約80%は甲状腺に存在しており、甲状腺ホルモ
ンの生成に関与しています。
❑ ビタミンA・鉄・ヨウ素は欠乏しやすいとされており、こ
れらの不足を世界三大微量栄養素欠乏症いいます。
❑ 日本人は海藻類を比較的多く摂取するため、欠乏症を起こすことは少ない
とされています。
過剰症状
甲状腺機能低下や甲状腺腫など。
欠乏症状
甲状腺機能低下、死産や流産、脱毛、体力低下、倦怠感など。
含有量の多い食材
昆布、海苔、メカブ、ワカメ、イワシ、サバ、カツオ、ブリなど 。
■ 鉄
❑ 貧血のなかで一番多いのが鉄欠乏による貧血です。
❑ 鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。
ヘム鉄 : 動物性食品のレバーや肉、魚類に多く
含まれます。
非ヘム鉄 : 卵や植物性食品(野菜や海藻類)に含
まれます。
❑ 吸収率は、「ヘム鉄」が3~5倍程度高いので、食事が植物性食品ばかり
に偏らないようにすることが大事です。 サプリメントや鉄製剤摂取で
は過剰摂取をおこすため、注意が必要です。
❑ ビタミンA・鉄・ヨウ素は欠乏しやすいとされており、これらの不足を
世界三大微量栄養素欠乏症いいます。
過剰症状
肝障害、心筋障害、不整脈など。
欠乏症状
頭痛、めまい、倦怠感、動悸、労作時呼吸困難、食欲不振
認知機能低下、集中力低下、焦燥感。
含有量の多い食材
レバー、赤身肉、カツオ、アサリ、シジミ、大豆、インゲン豆、納豆など 。
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