■ 尋常性疣贅 ガイドライン2019
❑ ウイルス性疣贅
ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus:HPV)により、皮膚や粘膜に生じる良性腫瘍です.疣贅の診断時には,脂漏性角化症や鶏眼,胼胝などとの鑑別が問題となります.治療の基本は液体窒素凍結療法ですが,足底の疣贅などは治療には難渋することもあります.疣贅の正しい診断,治療のための尋常性疣贅診療ガイドライン2019(第1版)が作成されました.
■ 疣贅の分類
❑ いわゆる「いぼ」はウイルスに感染した「ウイルス性疣贅」と「軟性
線維腫」,「脂漏性角化症(老人性疣贅)」に大別されます.
ウイルス性疣贅はさらに疣贅(典型,非典型,特殊型),伝染性軟属腫に分
類されます.疣贅は主としてPV2a/27/57 型の感染で生じるウイルス性疣贅
の代表であり,通常手足に多くみられ,えんどう大までの結節を生じ,徐々
に増大し融合してきます.疣贅の発症部位によって指状/糸状疣贅,足底疣贅,
モザイク疣贅,爪囲疣贅,爪甲下疣贅,ドーナツ疣贅(リング疣贅)といっ
た名称が用いられます.ガイドラインでは疣贅(典型,非典型,特殊型)を
対象としており,尖圭コンジローマなどの特殊型の一部は基本的には対象外
になっています.また,軟性線維腫,脂漏性角化症(老人性疣贅),伝染性
軟属腫はHPV 感染症でないため除外されています.
|
臨床病型
|
臨床的特徴 |
原因ウイルス
(主なHPV型) |
いぼ |
ウ
イ
ル
ス
性
疣
贅
|
尋
常
性
疣
贅
|
典型例
|
表面粗造な類円形の結節 |
HPV2a/27/57 |
指/糸状疣贅 |
顔面,頸部で外方向性に増殖.
すぼめた指や糸状にみえる |
HPV2a/27/57 |
足底疣贅 |
足底で外方向性増殖が乏しく,表面粗造な角化性局面を生ず |
HPV2a/27/57
|
モザイク疣贅 |
足底疣贅の中で個疹が融合し
敷石状になった状態 |
HPV2a/27/57 |
爪囲疣贅 |
爪周囲に生じる難治性疣贅 |
HPV2a/27/57 |
爪甲下疣贅 |
爪甲下から塊状に隆起する |
HPV2a/27/57 |
ドーナツ疣贅(リング疣贅) |
環状を呈する疣贅.再発例としてみられる. |
HPV2a/27/57 |
特
殊
型
|
ミルメシア |
蟻塚状の結節.小児足底に単発例として多い |
HPV1a |
扁平疣贅 |
青壮年の顔面,手背に多発する扁平な小結節. |
HPV3/10/28/29 |
butcher’s wart |
食肉処理業者の手指に多い |
HPV7 |
色素性疣贅 |
灰色から黒色調の結節 |
HPV4/60/65 |
点状疣贅 |
足底に生じる1~2mmの角化性病変.
陥凹することが多い |
HPV63 |
Ridged wart |
皮膚紋理の開大を呈する.ウイルス性足底表皮囊腫上に生じることが多い. |
HPV60 |
白色小型疣贅/小型疣贅状丘疹 |
尋常性疣贅状小丘疹 |
HPV88/95 |
ウイルス性足底表皮囊腫
|
HPV関連の表皮様囊腫.足底に多い. |
HPV27/57/60 |
疣贅状表皮発育異常症 |
扁平疣贅様皮疹や癜風様皮疹が多発
.日光露光部位は発癌する. |
HPV5/8/12/14/ 15/17/20/47 |
尖圭コンジローマ |
外陰部の乳頭腫状,カリフラワー状の
小結節.時に巨大な腫瘤を形成する. |
HPV6/11 |
伝染性軟属腫 |
小児の中心臍窩を伴う小結節 |
HPV6/11 |
脂漏性角化症:高齢者に生じる褐色調の結節 |
関連なし |
軟性線維腫:有茎性のsoft結節.頸部,腋窩に生じる.摩擦,紫外線,加齢が原因 |
関連なし |
尋常性疣贅診療ガイドライン2019(第1版)
■ HPVの特徴
❑ 疣贅の侵入経路
主としてヒトからヒトへの直接的接触感染ですが,間接的接触によっても感染する機会があります.銭湯,温泉施設,プール,ジムらなど公共施設でのHPVに感染したケースを見受けられます .また,鮮魚や精肉の処理に従事する人では手指の浸軟がHPVの侵入を助長させ, 手の疣贅の発症率が高いことが知られています.通常HPVは健常の上皮には感染しませんが,外傷など
損傷を受けた微小な部位から侵入し,表皮最下層の基底細胞に感染し,潜
伏感染状態となります.
❑ 疣贅の疫学
疣贅は小児を中心に全世界で幅広くみられます.有病率に関しては国ごとに異なりますが,若年者に高い傾向があります.
■ 疣贅の治療方法
ガイドラインは現時点での標準的診療指針を示すものですが、疣贅の病型や
症状は様々です.個々の診療に当たり、症例毎の事情を踏まえて組み立てる必
要があります.
推奨度の分類
A |
行うよう強く勧められる |
B |
行うよう勧められる |
C1 |
行うことを考慮してもよいが,十分な根拠がない |
C2 |
根拠がないので勧められない |
D |
行わないよう勧められる |
物理的治療法
❑ 液体窒素凍結療法
[推奨度:A]
保険適用があり,現在,疣贅治療の第1 選択として最も頻用されている治療法です
.液体窒素を用い、感染した角質とヒトパピローマウイルスを同時に冷凍凝固します.通常1回の治療で治ることはなく,1週間毎にくり返し治療を続ける事が重要です.なかには数ヶ月を要することもあります.治療中に疣贅が小さくなってもウイルスが残存していると,再燃しもとの大きさに戻ってしまいます.また液体窒素は「-196℃」とドライ
アイス「-78.5℃」より冷たく,若干の痛みを伴います.したがって小さな
お子様や痛みが苦手な人には難しい場合があります.
凍結強度:白く硬くなるのを目安に疣贅を凍結させ,凍結と融解を4~5 回
繰り返します.
治療間隔:3週を超えないよう推奨されています.
❑ 電気凝固
[推奨度:B]
イボ焼灼法として保険適用が可能であり,治療選択肢の1つとして推奨され
ます.局所麻酔の必要があります
❑ レーザー照射
[推奨度:B]
標準治療である液体窒素凍結療法で無効・難治例に対しては、選択肢の1つ
として推奨されます.しかしながら,有効率にかなりの差があるという問題
点が残っています.
❑ 外科的切除
[推奨度:C1]
疣贅の数が1~2個の場合には局所麻酔下にて
単純に紡錘形に切除縫合します.特に難治性の小さな疣贅には適用であり,
繰り返しの治療法を回避することができます.即効的治療が要求される際の
選択肢の1つです.
❑ 光学力学的療法
[推奨度:C1]
疣贅の治療に対して保険適用ではありません.
❑ いぼ剥ぎ法
[推奨度:C1]
局所麻酔下にて眼科用剪刃らを用いて疣贅組織を完全に剝離除去する方法
であす.外科的切除の1
つであり,取り残しにより再発をきたします.保
険適用あり.
❑ 超音波メス
[推奨度:C1]
真皮を残してウイルス感染した表皮病変部のみを削り取る方法です. 保険
適応はありません.
化学的治療法
推奨度の分類
A |
行うよう強く勧められる |
B |
行うよう勧められる |
C1 |
行うことを考慮してもよいが,十分な根拠がない |
C2 |
根拠がないので勧められない |
D |
行わないよう勧められる |
❑ サリチル酸外用
[推奨度:A]
高濃度サリチル酸の外用・貼付により、角層の剝離や,疣贅に対する免疫賦
活化作用もあるとされています.またはスピール膏を 3~5 日貼付し, 取
り換える.プラセボ群と比較し,1.6 倍の治癒率の報告もあります.
❑ モノクロル酢酸外用
[推奨度:C1]
強酸であり,組織を腐食させる作用があります.保険適応がなく、重篤な副
作用もみられることから使用には注意を要します.
❑ グルタールアルデヒド外用
[推奨度:C1~2]
医療器具の消毒や固定液として広く使われていますが,保険適応がなく人
体には有害であり,積極的には推奨されません.
❑ フェノール外用
[推奨度:C1]
疣贅(いぼ)表面の角質をなるべく削った後,液状フェノール®(強い腐食作用をもつ)を塗布します.数分間経過後,純エタノールで洗い流します.週に1回程度外用する.
腐食作用が強いので使用にあたっては十分に注意が必要です. 痛みのない治療であり,小さなお子様に適した治療法ですが,第1選択の治療では
ありません.また顔や腕など皮膚の薄い部位には適応ではありません.
薬理的治療法
推奨度の分類
A |
行うよう強く勧められる |
B |
行うよう勧められる |
C1 |
行うことを考慮してもよいが,十分な根拠がない |
C2 |
根拠がないので勧められない |
D |
行わないよう勧められる |
❑ 活性型ビタミンD3外用
[推奨度:C1]
密封療法(フイルムまたはスピール膏を併用)はさらに有効とされています.
❑ ブレオマイシン局所注入療法
[推奨度:C1]
オープン試験では 20~90%と治癒率にばらつきがみられます.副作用とし
て注射部位疼痛(48 時間程度)と色素沈着(数週間程度)などが挙げられ
注意を要します.
❑ 5-FU 外用
[推奨度:C1]
有効性に関しては不明です.密法療法での有効性の報告があります.
❑ ポドフィリン外用
[推奨度:C2]
有効性の評価は乏しく治療として推奨されません.
❑ レチノイド外用
[推奨度:C1]
RCTがありますが,信頼度は高くありません.
❑ レチノイド内服
[推奨度:C1]
角質肥厚が著明な疣贅や多発性または足底の難治性疣贅に有効な場合あり
ます. RCTが存在し,プラセボ群と比較し,有意な差を認めています.し
かし催奇形性など妊婦には使用できません.
免疫学的治療法
推奨度の分類
A |
行うよう強く勧められる |
B |
行うよう勧められる |
C1 |
行うことを考慮してもよいが,十分な根拠がない |
C2 |
根拠がないので勧められない |
D |
行わないよう勧められる |
❑ ヨクイニンエキス
[推奨度:B]
ヨクイニンとは,ハトムギの殻を取り除いたものからえられる成分です.内服により体の免疫力(抵抗力)が高まり,HPV-1を
駆除する作用があるとされています.しかしその効果は弱く,局所療法(液
体窒素療法など)が困難な場合(数が多い,顔のいぼ,扁平疣贅,子供のい
ぼ等)には適していると考えられます. 成人は18~24 錠,3~6g/日を内
服し,小児は成人の半量を内服します.保険適用があります.
❑ 接触免疫療法
[推奨度:B]
DPCP,SADBE
などによる感作後,定期的に外用します.疣贅に対し,高
い治療効果を示しています.副作用として痒みや蕁麻疹の発現に対処が必要
です.
❑ イミキモド外用
[推奨度:C1]
RCT は存在しませんが,有効性の報告は多数あります. 密封療法での有効
例もあります.
❑ シメチジン内服
[推奨度:C1]
小児に有効例あり.液体窒素冷凍凝固法を拒否する小児に使用します. H2
受容体拮抗薬であるシメチジンは,胃酸分泌抑制作用のほかに免疫賦活作用,
抗腫瘍効果があるとされており,難治性の疣贅や扁平疣贅等の治療に用いら
れます.有効性評価は一定しませんが,治癒例では 16 歳以下の小児の割合
が多く、服用期間はいずれも 3~4 カ月とされています.
❑ インターフェロン局注
[推奨度:C1]
有効性評価は認められません.
その他治療法
❑ プラセボ効果
[推奨度:C2]
実薬との効果を比較する目安の数字といえます.
❑ 暗示療法
[推奨度:C2]
暗示療法に関する良質なエビデンスは存在しません.
■ 尋常性疣贅治療アルゴリズム
尋常性疣贅診療ガイドライン2019(第1版)
■ 足底疣贅治療アルゴリズム
ガイドラインは現時点での標準的診療指針を示すものですが、疣贅の病型や
症状は様々です.個々の診療に当たり、症例毎の事情を踏まえて組み立てる必
要があります.
尋常性疣贅診療ガイドライン2019(第1版)
■ 多発性疣贅治療アルゴリズム
尋常性疣贅診療ガイドライン2019(第1版)
■ 小児の疣贅治療アルゴリズム
尋常性疣贅診療ガイドライン2019(第1版)
推奨度の分類
A |
行うよう強く勧められる |
B |
行うよう勧められる |
C1 |
行うことを考慮してもよいが,十分な根拠がない |
C2 |
根拠がないので勧められない |
D |
行わないよう勧められる |
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