■ 腰痛 ( Backache )
◇腰痛の分類
❑ 急性腰痛 : 発症から4 週間未満。
❑ 亜急性腰痛 : 発症から4~12 週間未満。
❑ 慢性腰痛 : 発症から12週間以上。
◇腰痛の原因
➢ 脊椎由来:椎間関節性,筋筋膜性,椎間板性,狭
窄症,椎間板ヘルニア,仙腸関節性など
➢ 神経由来:脊髄腫瘍,馬尾腫瘍など
➢ 内臓由来:腎,尿路,婦人科疾患,妊娠など
➢ 血管由来:腹部大動脈瘤,解離性大動脈瘤など
➢ 心因性 :うつ病,ヒステリーなど
◇腰痛の自然経過
❑ 急性腰痛 : 自然軽快することが多く概ね良好。
❑ 慢性腰痛 : 急性腰痛に比べて経過不良。
❑ 腰痛を遷延化させる因子 : 心理社会的要因 (回
復に対するマイナス思考・破局的思考)
❑ 腰痛の予後によい因子 : 身体的・精神的に健康
な生活習慣(喫煙なし,アルコール摂取量が少ない,
余暇の運動,フルーツ及び野菜 摂取量が多い)
◇腰痛と生活習慣の関係
❑ 体重(BMI:
18.5以下、25.0以上) : 腰痛発症
のリスクと相関が認められ,健康的な体重管理が腰
痛予防には好ましい。生活習慣病の増加に伴い腰痛
が急増しており、検診受診者の30%程度に認めら
れている。
❑ 喫煙・飲酒 : 腰痛発症のリスクや有病率との関
連が指摘されている。
❑ 適度な運動 : 腰痛発症リスクは減少する。
❑ 健康的な生活習慣 : 腰痛予防に推奨される。
◇腰痛と職業の関係
❑ 身体的因子
➢ 負荷の大きい重労働(運輸・清掃・看護・介
護・農業など) : 腰痛発症の危険因子 (エビ
デンスの強さ;中等度)
❑ 心理社会的因子(仕事や職場)
➢ 関連因子 : 仕事に対する満足度、単調さ、人
間関係、仕事量、精神的ストレス、自己評価。
➢ 予後不良因子 : 仕事に対する低い満足度,う
つ状態,低い社交性,破局的思考。
◇腰痛と心理社会的因子
❑ 腰痛の治療成績と遷延化には,心理社会的因子が強
く関連。
➢ 予後不良因子 : 年齢,下肢痛、腰痛の既往
うつ,仕事上の問題・不満
➢ 職場復帰に影響を与えない因子:うつ,仕事に
対する満足度,精神的ストレス。
◇腰痛と活動性
腰痛治療中は「安静」と「活動性維持」どちらがいい?
➢ 急性腰痛の疼痛軽減,身体機能回復,病欠の期
間短縮には「活動性維持」が有益。
➢ 坐骨神経痛を伴う腰痛には,「安静」と「活動性
維持」に差はなし。
■ 腰痛と薬物療法
❑ 薬物療法は疼痛軽減や機能改善に有用。ただし、過
半数の研究結果に企業との利益相反(COI)が影響し
ている可能性があること念頭に評価する必要あり。
急性腰痛に対する推奨薬 |
推奨度 |
エビデンスの強さ |
非ステロイド性抗炎症薬 |
1 |
A |
筋弛緩薬 |
2 |
C |
アセトアミノフェン |
2 |
D |
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液 |
2 |
C |
弱オピオイド |
2 |
C |
慢性腰痛に対する推奨薬 |
推奨度 |
エビデンスの強さ |
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 |
2 |
A |
弱オピオイド |
2 |
A |
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液 |
2 |
C |
非ステロイド性抗炎症薬 |
2 |
B |
アセトアミノフェン |
2 |
D |
強オピオイド(過量使用や依存性の問題がある) |
3 |
D |
三環系抗うつ薬 |
なし |
C |
坐骨神経痛に対する推奨薬 |
推奨度 |
エビデンスの強さ |
非ステロイド性抗炎症薬 |
1 |
B |
Ca チャンネルα2δ リガンド |
2 |
D |
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 |
2 |
C |
■ 腰痛と物理・装具療法の関係
◇高品質な研究は少なく,推奨される治療法は限定的。
物理・装具療法 |
推奨度 |
エビデンスの強さ |
牽引療法 |
2 |
C |
超音波療法 |
2 |
C |
経皮的電気神経刺激(TENS) |
2 |
C |
温熱治療 |
2 |
C |
腰椎サポート |
2 |
C |
■ 腰痛と運動療法
◇急性腰痛
❑ 運動療法(腰痛体操など)の効果はなく,通常どおりの生活を継続する
のがよい。
◇亜急性腰痛
❑ 疼痛・機能障害改善 : エビデンスレベルが低い研究しかなく、質
の高い研究が必要。
◇慢性腰痛
❑ 疼痛改善 : 有効。 [ 推奨度 1 エビデンスの強さB ]
❑ 運動機能,健康状態,筋持久力,QOLなどの改善:有効。
❑ 効果的な運動療法の種類 : 明確に示す論文はない。
❑ 今後の検討項目 : 長期運動療法の効果、有害事象研究。
■ 「患者教育」「心理行動的アプローチ(認知行動療法)」
❑ 患者教育と心理行動的アプローチ : 有用。
[ 推奨度 1 エビデンスの強さC ] ・エビデンスレベルが低い研究しかない。
◇腰痛学級
❑ 疼痛改善 : 有効。
❑ 機能障害の改善 : 有効。
❑ 職場復帰 : 慢性腰痛の労働者に有効。
❑ 発症防止効果 : 効果なし。
❑ 欠勤防止 : 有効。
◇小冊子・ビデオプログラム
❑ 急性腰痛症にたいして
➢ 腰痛冊子やインターネットを介した指導 : 他の治療と比較し効果なし。
❑ 慢性腰痛症にたいして
➢ アドバイス(活動的な生活,適切な運動) : 有効 (ただし急性腰痛に対
する効果は不明)
❑ 疼痛改善 : 腰痛に関する知識を増やし,患者の信念を改善させる。
❑ 小冊子について : 心理社会的な小冊子の方が医学的なものより有効。
❑ 欠勤防止 : 効果なし。
❑ e-mail ・ビデオプログラムを用いた教育 : 単独では予防や治療効果なし。
◇認知行動療法(CBT)
❑ 痛み,機能障害,健康関連QOL の長期的な改善 : 有効。
❑ 腰痛関連機能障害の改善 : 有意差なし
❑ 健康関連QOL の向上 : 有意差なし
❑ 恐怖回避思考の変容 : 有意差なし
❑ 腰痛強度の低減 : わずかに有効。
❑ 慢性疼痛に対して
➢ 短期的な痛みの軽減に : 有効。
➢ 中~長期的な痛みの軽減や機能向上 : 通常の治療と差なし。
❑ 治療医抵抗性で遷延化した腰痛にたいし、集学的治療の一手段として有効で
ある可能性あり。
■ 腰痛のインターベーション治療
◇腰痛に対するインターベンション治療 : 神経ブロック, 注射療法,脊髄刺
激療法など
◇硬膜外・神経根ブロック
❑ [ 推奨度 1 エビデンスの強さC ]
❑ 硬膜外ブロック : 腰痛に対し短期・中期的な鎮
痛およびADL改善効果をもたらす点で有効。
❑ 経椎弓間腰椎硬膜外ブロックおよび神経根ブロッ
ク : 神経根性疼痛に対し短期的に有効。
❑ ステロイド添加:有意な鎮痛効果をもたらすエビデンスは乏しい。
◇注射療法
❑ [ 推奨度 1 エビデンスの強さC ]
❑ 椎間板内注射:短期・中期的な鎮痛およびADL 改善
効果をもたらす点で有効。
❑ 椎間関節注射および脊髄神経後枝内側枝ブロック
,経皮的椎間関節枝ブロック的椎間関節枝ブロック
腰痛にたいし、短期的および長期的鎮痛、ADLスコア
改善に有効である可能性あり。
❑ ステロイド添加は無効。
■ 腰痛の代替え療法
❑ [ 推奨度なし エビデンスの強さ 確立されていない]
❑ 有用性は不明。
❑ 論文のエビデンスレベルは低いが、有効と考えられる代替療法は1)~4)。
1) 徒手療法
❑ 急性腰痛に対する徒手療法
➢ 疼痛改善 : 効果なし。
➢ 機能障害の改善 : 有用。
➢ エビデンスレベルが低い研究しかない。自然経過
などを凌駕するものではないと考えられている。
❑ 慢性腰痛に対する徒手療法
➢ 疼痛改善 : 効果なし。
➢ 機能障害の改善 : 効果なし。
➢ QOL : 効果なし。
➢ 不明なこと:腰椎可動域の改善、薬物使用量の減少,休業期間の短縮、治療
満足度、医療経済効果
❑ 慢性腰痛に対する徒手療法は、他の治療法に比べて推奨できないとされている。
2) 鍼治療
❑ 急性腰痛に対する鍼治療
➢ 疼痛改善 : 効果ある可能性あり。
➢ 機能障害の改善 : 効果なし。
❑ 慢性腰痛に対する鍼治療
➢ 疼痛改善 : 効果なし。
➢ 機能障害の改善 : 短期間の効果あり。しかし持続性は不明。
3) マッサージ
急性・慢性腰痛に対するマッサージ
❑ 疼痛改善効果・機能障害:短期間の効果あり(持続性
はない)。
❑ 不明なこと:QOL・心理面・腰椎可動域の改善、薬
物使用量の減少,休業期間の短縮、治療満足度、医
療経済効果
4) ヨガ
慢性腰痛に対するヨガ
❑ 疼痛改善 : 効果あり。
❑ QOL改善 : 効果あり。
❑ 医療経済効果 : 効果あり。
❑ 不明なこと : 心理面・腰椎可動域の改善、薬物使用量の減少,休業期
間の短縮、治療満足度、
◇腰痛予防方法
❑ 運動療法 : 有効。
[ 推奨度 1 エビデンスの強さB ]
❑ 認知行動療法 : 有効。
[ 推奨度 2 エビデンスの強さB ]
❑ 職場環境の改善 :
[ 推奨度 2 エビデンスの強さB ]
➢ 器具や作業場の高さ調整など : 強く推奨。
➢ 持ち上げ器具や重量の調整 : 弱く推奨
❑ コルセット : 直接的な予防効果はない。
[ 推奨度 なし ]
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