| フレイル・サルコペニア
 
  
 
 
   
  高齢者の医療の目的は、単なる寿命の延長ではなく,心身ともに健康(認知症や寝たきりにならない)であることが重要です.
 
 【 フレイル (frailty) とは 】
 
 
 「健康な状態」→「フレイル」→「介護が必要な状態」
 
 
  
  高齢者は加齢にともない、老い衰えるとされてきました.いっぽう「フレイル」の考え方では、適切な介入により再び「健康な状態」に戻ることができるとされています.したがって「フレイルの状態」を早期に見つけ介入することで,「介護が必要な状態」になることを予防し、健康寿命を延伸できる可能性があります.
 
 
 【フレイルの頻度】
 
  
  
 
 
                    
                      
                        | ・65-74歳 |  | 4%程度 |  
                        | ・75- 84歳 |  | 16.2 %程度 |  
                        | ・85歳以上 |  | 34%程度 |  
 【フレイルの原因】
 
  
  
 
 
                    
                      
                        | 1.精神的な要因 |  | ・認知機能の低下・うつ・疲れやすい 
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                        | 2.身体的な要因 |  | ・サルコペニア(筋肉減少・筋力低下・歩行能力の低下) ・骨粗鬆症・低栄養(体重減少)、
 ・慢性疾患(糖尿病、呼吸器疾患、
 ・循環器疾患、関節炎、抑うつなど)
 ・口腔内疾患(嚥下困難や咀嚼力の低下による食欲不振
 ・低栄養
 
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                        | 3.社会的な要因 |  | ・閉じこもり(孤独)・孤独・経済的問題 |  
 
 【フレイルの診断】
 
  
  
 
 統一された診断基準はありませんが、一般に「J-CHSの診断基準」や「簡易フレイルインデックス」が使用されます.
 
 
 
                    
                      
                        | 
  J-CHS(Japanese version of Cardiovascular Health Study)の診断基基準  
 
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                        | 1.体重減少 2.筋力低下
 3.易疲労感
 4.歩行速度の低下
 5.活動性の低下
 
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 :
 
 | 6か月で,2~3kg以上の体重減少 握力:男性<26kg,女性<18kg
 最近2週間訳もなく疲れたような感じがする
 通常歩行速度<1.0m/秒
 定期的に軽い運動・体操をしているか?
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                        | く該当項目数〉
 ・0項目:健常, ・1~2項目:プレプレイル ・3項目以上:フレイル
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 (荒井秀典他壬:フレイル診療ガイド2018年版.ライフ・サイエンス,東京,2018:5)   
 
 
 
                    
                      
                        |  簡易フレイルインデックス(道具を使わない簡易の判断方法)  
 
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                        |  |  | ・6か月で,2~3kg以上の体重減少がありますか ・以前に比べ歩行速度が遅くなってきたと思いますか ・ウォーキングなどの運動を週に1回以上していますか ・5分前のことを思い出せますか ・(ここ2週間)訳もなく疲れたように感じますか |  
                        | く該当項目数〉
 ・3つ以上:フレイル, ・1~2つ:プレプレイル
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 (荒井秀典他者:プレイル診療ガイド2018年版ライフ・サイエンス,東京.2018:8) 
                     
 
 【 サルコペニアとは】
 
 「サルコペニア」とは四肢の骨格筋量減少により筋力低下した状態です
 (握力、下肢筋力、体幹筋力などの低下).その結果、身体機能が低下
 します(歩行速度がおそくなり、杖などが必要になります).したがって、
 フレイルの中核的病態とされています.
 
 
 【サルコペニアの診断】
 
  
  
 
 
 
                    
                      
                        |  |  | 
 
 ・握力が低下した状態(男性 28kg未満  女性 18kg未満) 
                   
                   ・下腿で最も太い部分の周囲径:男性34cm未満,女性33cm未満 
                   
                   ・歩行速度が低下した状態 6mの歩行で、1.0m/秒未満、 
                   
                   ・5回椅子立ち上がりテストが5回で12秒以上) 
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                        | 上記にてサルコペニアの可能性があると判断します.
 あくまで筋肉量減少の目安です
 |  * AWGS2019サルコペニア診断基準 http://jssf.umin.jp/pdf/revision_20191111.pdf
 
   
   
【 サルコペニアと各疾患について】
 
 
 
                  骨粗鬆症
 
  
  
 
 ・骨脆弱のため、軽微な外力で骨折します.
 
 ・脆弱性骨折を起こすと、連鎖して他部位の骨折を容易に引き
 起こす可能性があります(骨折連鎖).
 1.脊椎脊体骨折:姿勢が悪くなりバランス悪化、その結果
 転倒しやすくなります.
 
     2.大腿骨近位部骨折:歩行不能となり、自立を損ないます.その結果寝たきりなど生命予後が不良となります.
 
 
                   
    3.上腕骨頭部骨折や橈骨遠位端骨折などの骨折連鎖.
 ・サルコペニアとのあいだに強い関連性があるとされています.
 脆弱骨折をおこすと、自立した生活が不自由になり、自立維持
 が困難になります.したがって骨粗鬆症にたいし積極的治療が
 必要とされています.
 
   
 糖尿病
 
  
  
 
 
   ・サルコペニアとのあいだに強い関連性があるとされています.
 ・どこまで厳格に管理するかが課題です.HbA1cのコントロ
 ールは、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」
 のカテゴリーⅡを目安にすればよいと思われます.
 
 
 
   ・運動療法は、レジスタンス運動で筋肉の動きを高めるのが有効とされています.
 
 ・薬物療法の注意点
 1.高容量メトホルミン、GLP-1、SGLT2阻害薬は体重減少
 作用あり注意が必要です.
 2.ピオグリタゾンは女性で転倒骨折を来しやすい可能性が
 あります.
 
 
 
 心血管疾患
 (虚血性心疾患・心不全など)
 
  
  
 
  ・フレイルとのあいだに強い関連性があるとされて
 います.
 
 ・介入方法 : 心臓リハビリテーションにより、
 運動耐容力、心肺機能、血管内皮機能の改善が
 えられるとされています.しかし、フレイルの状態
 で有酸素運動を持続的に行うことは難しく、さらな
 る研究の発展がまたれます.
 
 
 
 
  呼吸器疾患(COPD)
  
  
 
 ・タバコなどの有害物質の吸入などにより、呼吸困難による
 身体活動性の低下や栄養障害をおこし、フレイルやサルコ
 ペニアをひきおこします.
 
 ・介入方法 : 呼吸リハビリテーションにより呼吸困難、
 運動機能、身体活動性などの改善が期待できます.
 
 
 
 
  ・認知症
  
  
 ・フレイルとのあいだに強い関連性があるとされています.
 
 
 
  ・薬の副作用
  
  
  
   ・ベンゾジアゼピン系の薬は,認知機能の低下や転倒のリスクとなります.
 
 ・抗コリン作用薬(抗不安薬や抗うつ薬の一部)は,
 生命  予後や認知機能に悪影響をあたえると
 されています.
 
 ・NSAIDs・アスピリンの内服により,食欲が低下
 し、低栄養になる可能性があります.
 
       
 
 
 
                  【 サルコペニア・フレイルへの介入 】 
 
                   運動の介入
 
  
  
  
  ・フレイル発症および進行予防に、運動介入が推奨されています.
 
 ・レジスタンス運動・バランス運動・機能的トレー
 ニングなどを複合するのがよいとされています.
 
 ・低強度の運動でも回数を増加させれば、筋肥大の
 増進や筋萎縮の抑制が期待されます.
 
 ・レジスタンス運動の頻度は,週2~3回,強度は最大筋力の70%
 程度でよいとされています.
 
 
 
 
  栄養の介入
  
  
  
  ・フレイルの予防には、筋肉の量と機能を維持するために、タンパク質摂取が重要とされています.
 
 
 
  ・蛋白摂取量は、1.0~1.2g/ kg 程度が望ましいとされています.
 
 ・低栄養のリスクがある場合は1.5g/kgが望ましい
 とされています.
 
 ・腎機能低下例は0.8~1.0g/kgと減らす必要があります.
 
 
  ・ビタミンDの摂取により,骨折のリスクを下げる可能性があります(日光浴も有効).
 
 ・抗酸化ビタミン(ビタミンC・E)に関しては、いまだ十分な
 科学的根拠がありません..
 
 
 
 
 
  薬物療法への介入
  
  
  ・漢方薬(補中益湯・人参養栄湯・六君子湯など)
 に関する臨床研究なく、その効果に関しては
 確定的なものはありません.
 
 
 
  ・性ホルモン(アンドロゲン) の効果に関しては、いまだ確定的なものはありません.
 
 ・ビタミンD3[血清25(OH)D]の効果に関しては、
 いまだ確定的なものはありません.
 
 
 
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