静脈血栓塞栓症
静脈血栓塞栓症について
静脈血栓塞栓症(VTE : venous thromboembolism)は稀な疾患でしたが、高齢化や食の欧米化などにより、最近増加しています. かつては周術期の病気と認識されていましたが、高齢化に伴う長期臥床や震災時においてもその発症が話題になるなど、常にその存在を念頭に置いておかねばならない疾患です.
■ 静脈血栓塞栓症
静脈血栓塞栓症(VTE)は、以下の2疾患に分けられます.
● 深部静脈血栓症(DVT : deep vein thrombosis)
● 肺血栓塞栓症(PTE : pulmonary thromboembolism)
■ 静脈血栓塞栓症(VTE)を疑うポイント
● 深部静脈血栓症(DVT)
疼痛・発赤・腫脹
● 肺血栓塞栓症(PTE)
胸痛・呼吸困難・息切れ
● 既往歴・家族歴・癌・骨折・手術歴・高齢・妊娠
・出産なども参考に.
● 経口避妊薬の服用者
服用開始後90日まででもっとも発症頻度が高い.
40歳過ぎてから急激に増加します(後天性プロテインC抵抗性).
[検査]
● 疑う場合はまずDダイマーを測定します.
● さらに疑わしい場合は、超音波検査を施行する事が推奨されます.
■ 深部静脈血栓症を放置すると
● 早期合併症
肺血栓塞栓症(PTE)や静脈壊疽.
● 晩期合併症
静脈弁不全に伴う血栓後症候群(PTS : post thrombotic syndrom) .
静脈圧亢進による慢性的な症候性静脈還流障害で,患肢の膨満感,重圧
感や疼痛等の症状を呈し,卵円孔開存者は、脳梗塞を発症することもあ
ります.
■ 深部静脈血栓症(DVT)の治療
1.抗凝固療法
2.カテーテル治療
3.圧迫療法
4.下大静脈フィルタ-
5.日常生活(術後を含む)
1.抗凝固療法
新しい抗凝固療法(DOAC)のメリット
● 用量調節が不要.
● 効果発現までの時間が短い.
● 治療域の抗凝固療法かでは、安静時と歩行時でのPTE発生率に差がない(Assaoui N , et al : Int J Cardiol 2009 : 137 . 37-41.)
したがって多くのDVT症例は、最初から外来で治療可能となってきました.
禁忌例
● DOACの禁忌症例(腎機能低下や出血傾向)
● 重症度の高いPTE合併症例.
● 血栓溶解療法を必要とする症例.
● 妊娠中・授乳中.
● P糖タンパク阻害剤併用例は減量が必要.
(キニジン・ベラパミル・エリスロマイシン・シクロスポリンなど)
DVT治療に用いられる経口抗凝固薬の特徴
|
リクシアナR
(エドキサバン) |
イグザレルトR
(リバーロキサバン) |
エリキュースR
(アピキサバン) |
ワルファリン |
作用機序 |
直接抗Ⅹa |
直接抗Ⅹa |
直接抗Ⅹa |
Ⅱ Ⅶ Ⅸ Ⅹ
因子合成阻害 |
投与量
投与回数 |
60mg1日1回 |
15mg2回/日(3週)
→ 15mg1日1回 |
10mg2回/日(1 週)
→ 5mg1日1回 |
1日1回 |
初期治療での
非経口薬併用 |
必要 |
不要
(重症PTE合併など
症例によって必要
な場合もある) |
不要
(重症PTE合併など
症例によって必要
な場合もある) |
必要 |
Tmax |
1-3時間 |
0.5-4時間 |
3-3.5時間 |
0.5-1時間 |
T(1/2) |
10-14時間 |
5-13時間 |
6-8時間 |
55-133時間 |
食事の影響 |
受けにくい |
受けにくい |
受けにくい |
VitKで作用減弱 |
禁忌 |
Ccr15ml/分以下 |
Ccr30ml/分以下 |
Ccr30ml/分以下 |
|
手術前の必
要休薬期間 |
1日
(リスクに応じ判断) |
24ー48時間 |
24ー48時間 |
3ー5日間
(INRで評価) |
抗凝固療法の期間
● 下腿群
6週間程度(軽傷例が多い).
● 中枢群・PTE群
原因を除去可能な場合は3-6ヶ月.
● 再発リスクが高い例
抗凝固療法を継続する.
2.カテーテル治療
(Catheter-directed thrombolysis : CDT)
[適応]
● 腸骨・大腿静脈領域や下大静脈へおよぶ急性期のDVT.
● 症状発現から14日未満の急性血栓.
● 良好な身体機能.
● 一年以上の生命予後.
● 出血リスクが少ない.
[方法]
● Infusuion法
カテーテル先端から血栓溶解剤を持続的に投与します.
● Pulse-spray法
カテーテル側孔から血栓溶解剤を間欠的に勢いよく投与し、血栓の脆弱化
・破砕を期待します.
3.圧迫療法
● 弾性ストッキング(ES : elastic stocking)
術後1~2週間は着用します.
DVTに対する弾性ストッキングのPTS発症予防効果は示され
ず、第10版ACCPガイドラインでは推奨されなくなりました
(Kearon , et al : chest 2016 ; 149.315-352.)
● 間欠的空気圧迫法(IPC : intermittent pneumatic compression)
ESよりも予防効果が大きいとされています.合
併症として腓骨神経麻痺、褥瘡、下肢血流障害に注
意が必要とされています.
4.下大静脈フィルター
必要な期間を終えたと判断されたら抜去することが推奨されています.
[適応]
● 抗凝固療法維持困難例.
● 抗凝固療法維持困難例ができない出血持続患者.
● 抗凝固療法維持困難例により脳出血を来した患者
● 抗凝固療法維持困難例抵抗性のPE再発例.
5.日常生活改善(術後含む)
● 早期離床.
● 弾性ストッキングの使用.
● 間欠的空気圧迫法の使用.
● 足関節底背屈運動の実施.
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