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         高血圧症
        Hypertension
  



 前回のガイドラインが約5年前に作成されましたが,薬物治療の進歩にともない,高血圧の予防や治療方法も変化しています.高血圧症の治療レベルを標準化すことを目的に,「高血圧症治療ガイドライン2019(JSH2019)第3版」に改訂されました.




 ■ 高血圧症とは                    


 ● 高血圧症は,脳心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)死亡の最大要因とされています.血圧120/80mmHgを超えると,脳心血管病,慢性腎臓病などに羅患し,死亡リスクも高くなります.実際に脳心血管病死亡の約50%が,120/80mmHgを超える血圧高値に起因すると推定されています. とくに収縮期血圧は,脳心血管病リスクをより強く予測し,他の危険因子の合併により,リスクはさらに高くなります.



 ■ 血圧の測定・評価について             

【 血圧の測定および評価の方法 】

・家庭血圧測定には,上腕カフ血圧計を用います.

・原則2回測定し,その平均値をその機会の血圧値
 として用います.


1回のみ測定した場合は,その値を血圧値として
 用います.


・朝,晩それぞれの測定値7日間(少なくとも5日間)の
 平均値を用い評価します.



【 高血圧の診断 】

          


         成人における血圧値の分類「JSH2019」

分類

診察室血圧(Hg) 家庭血圧(Hg)
収縮期血圧    拡張期血圧  収縮期血圧    拡張期血圧

正常血圧

119 かつ 79 115 かつ 75

正常高値血圧

120-129 かつ <79 115-124 かつ <75
高値血圧 130-139 かつ/または 80-89 125-134 かつ/または 75-84
Ⅰ度高血圧 140-159 かつ/または 90-99 135-144 かつ/または 85-89
Ⅱ度高血圧 160-179 かつ/または 100-109 145-159 かつ/または 90-99
Ⅲ度高血圧 180 かつ/または 110 160- かつ/または 100-

(孤立性)収縮期血圧

140

かつ 90

135-

かつ 85



【 血圧の変動について 】

 
 家庭血圧


 ・診察室血圧と家庭血圧に相違がある場合,家庭血圧による診断を優先します.

   エビデンスの強さ・推奨度  A B-1 C D


 早朝高血圧


 ・アルコール,喫煙,寒冷,起立性高血圧などが原因.
 



 夜間高血圧


 ・心不全,腎不全,自律神経障害,糖尿病などが原因.


 昼間高血圧


 ・職場や家庭での精神的ストレス,身体的ストレスなどが原因.


 仮面高血圧


 ・非高血圧の10-15%,診察室血圧が140/90Hg未満にコントロールされて
  いる患者の9-23%にみられます.



 血圧日内変動


 ・高血圧診療では,血圧日内変動パターン(non-dipperriserdipperなど)
  や夜間血圧,早朝血圧,職場血圧などに対しても留意します.



 白衣高血圧


 ・高血圧患者の15-30%にみられ,高齢者でその割合が増加します.

 ・非高血圧(正常血圧,正常高値血圧,高値血圧)と比較して,脳心血管病
  イベントリスクが高いとされています.

 ・正常血圧と比較して,将来的な脳心血管病発症のリスクが高く注意が必要です.


   エビデンスの強さ・推奨度  A B C-2 D





 ■ 高血圧の管理・治療方針について           


 

 ・心血管イベントおよび死亡抑制のため,130/80mmHg未満を推奨します.

   エビデンスの強さ・推奨度  A B-2 C D




 ■ 血圧と生活習慣ついて                


【 食事について 】


 減塩目標 : 塩分摂取量は6g/日未満にすることが推奨されます.

   エビデンスの強さ・推奨度  A-1 B C D

 ・食事パターン : 野菜・果物を積極的に摂取し,飽和脂肪酸や
  コレステロールの摂取を控えましょう.多価不飽和脂肪酸や低脂肪
  乳製品の積極的摂取も推奨されます.

 ・適正体重の維持 : BMI 25未満を維持しましょう.

 ・運動 : 軽強度の有酸素運動を毎日30分,または週180
       以上行いましょう.

 ・節酒 : エタノールとして男性20-30mL/日以下,
       女性10-20mL/日以下に制限しましょう.

 ・禁煙 : 禁煙しましょう.


【 特定保健用食品(トクホ)・機能性表示食品について 】

 
 ・高血圧に関する特定保健用食品(トクホ)には
  機能成分としてペプチド,杜仲葉配糖体,酢酸,γ
  アミノ酪酸,フラボノイドなどが含まれています.

 ・特定保健用食品(トクホ)の問題点として,申請に
  必要な臨床試験の期間が短く,対象者数も少ないた
  め効果が不明です.
降圧効果を  有する成分が含
  まれてはいますが,十分な降圧効果は期待しがたい
  です.
降圧薬の代わりにはならず,降圧効果に期待
  をもてず,摂取について積極的に勧められません.





 ■ 血圧と降圧薬について                

【 高血圧症の治療薬 】

 ・Ca括抗薬,ARBACE阻害薬,利尿薬のなかから
  選択します.

 ・11回投与を原則とします(降圧が不十分な場合
  は12回).

 ・コントロール不良の場合は2-3剤を併用します.

 ・2剤の併用療法 :
     ARB/ACE阻害薬+Ca括抗薬.
     ARB/ACE阻害薬+利尿薬.
     Ca括抗薬+利尿薬

  適 応 禁 忌 慎重投与

Ca括抗薬

左室肥大・頻脈・狭心症 徐脈 心不全

ARB

左室肥大・HFrEF
心筋梗塞後・蛋白尿を伴うCKD
妊娠 K血症

ACE阻害薬

左室肥大・HFrEF
心筋梗塞後・蛋白尿を伴うCKD
妊娠・血管神経性浮腫 K血症

サイアザイド系利尿薬

HFrEF NaKの減少 痛風・妊娠
耐糖能異常

β遮断薬

HFrEF・頻脈
狭心症・心筋梗塞後

喘息・徐脈・褐色細胞腫 耐糖能異常・COPD
末梢動脈疾患



【 治療抵抗性高血圧症について 】

 ・生活習慣の改善+利尿剤を含む3剤の降圧剤(Ca拮抗剤,ACE阻
  害薬/ARB,サイアザイド系利尿剤)で目標まで下がらない状態.

 ・原因:食塩過剰摂取,肥満,飲酒などの生活習慣,服薬できてない,
  白衣高血圧,睡眠時無呼吸症候群,二次性高血圧(原発性アルドス
  テロン症など),腎機能低下,ストレス,薬の飲み合わせが悪いetc

 ・MR拮抗薬が治療抵抗性高血圧に対し追加薬として推奨されます.

   エビデンスの強さ・推奨度  A B-2 C D





 ■ 血圧と臓器障害ついて                


【 脳梗塞と高血圧症 】

 ・Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARB,利尿薬を用いて治療します.


     降圧治療の対象 目標
(診察室血圧)
 目標
(家庭血圧)
慢性期
(発症1カ月以降)
脳梗塞(両側頸動脈,高度狭窄,脳主幹動脈閉塞なし)脳出血,くも膜下出血 SBP140Hg <130/80㎜Hg <125/75㎜Hg
脳梗塞(両側頸動脈,高度狭窄,脳主幹動脈閉塞あり・未評価) SBP140Hg <140/90㎜Hg <135/85㎜Hg



【 心疾患について 】

 心肥大


 ・心肥大が退縮により予後が改善します.

 ・十分な降圧が必要です.

 ・第一選択薬 : RA系阻害薬,長時間作用型
  Ca
括抗薬



 冠動脈疾患


 ・降圧目標:130/80㎜Hg未満. 収縮期血圧130未満に目指すことを優先
  ,拡張期血圧80㎜Hg未満未満を避ける必要はありません.

   エビデンスの強さ・推奨度  A B-2 C D



 狭心症(冠動脈狭窄)

   
 ・Ca拮抗剤・β遮断薬(内因性交感神経刺激作用のない)が第一選択薬です.


 狭心症(冠撃縮性狭心症)


 ・
Ca
拮抗剤が第一選択薬です.


 心筋梗塞後


 ・標準的治療 : ACE阻害薬が第一選択薬です.

 ・重症収縮機能症例:MR拮抗薬を追加します.

 ・うっ血改善 : 利尿薬を追加します.

 ・降圧不十分例 : 長時間作用型Ca拮抗薬の追加します.



 心房細動


 ・収縮期血圧130Hg未満.

 ・RA系阻害薬を中心とした治療.



左室駆出率が低下した心不全


 ・血圧正常か低い例が多い.


 ・QOL改善、入院抑制のために降圧薬を用います.

 ・一概に降圧目標値を定められません.

 ・標準的治療は,ACE阻害薬/ARBβ遮断薬+利尿薬の併用療法です.

 ・MR拮抗薬の併用により,さらに予後を改善します.

 ・降圧不十分な場合は,長時間作用型Ca拮抗薬の追加します.          



左室駆出率が保持された心不全


 ・降圧目標は,収縮期血圧130mmHg未満とします.

   エビデンスの強さ・推奨度  A B C-2 D


 ・利尿薬を中心とした治療を施行します.



【 慢性腎臓病(CKD) 】

 ・詳細はこちらを参照してくだい.

 

【 血管疾患について 】

 ・大動脈解離:迅速な降圧,心拍数コントロールが必要です.

 ・急性期:収縮期血圧を100-120mmHg未満にコントロールします.

 ・慢性期:収縮期血圧を130mmHg未満にコントロールします.

 ・
胸部大動脈瘤:収縮期血圧を105-120mmHgに維持します.





 ■ 他疾患を合併する高血圧症について           

【 糖尿病 】


 ・治療開始血圧:140/90Hg以上.

 ・130-139/80-89Hgでは,生活習慣の修正による
  降圧を試みます)


 ・診察室での収縮期血圧は130Hg未満および
  家庭血圧は125mmHg未満を目標とします.

   エビデンスの強さ・推奨度  A B-2 C D

 ・推奨される薬剤:ARB,ACE阻害薬に加え,Ca拮抗
  薬,少量のサイアザイド系利尿薬.
   エビデンスの強さ・推奨度  A B-2 C D

 ・アルブミン尿,蛋白尿合併例:ARBACE阻害薬が
  優先され,Ca拮抗薬,サイアザイド系利尿薬を併用します.
   エビデンスの強さ・推奨度  A B-2 C D



【 肥満・メタボリックシンドローム 】


 ・食事療法や運動療法による3%以上の減量で有意
  な降圧効果が期待できます

 ・心血菅病発症の重要な危険因子であり,厳格な
  血圧管理が推奨されます.

 ・ARB
ACE阻害薬の使用が推奨されます(内臓
  脂肪型肥満,インスリン抵抗性や糖尿病発症に
  対する配慮).


【 睡眠時無呼吸症候群(OSAS) 】


 ・昼間の眠気に加え,いびき・無呼吸 夜間尿,夜間
  呼吸困難,夜間発症の脳心血管イベント,治療抵抗
  性高血圧では積極的に閉塞性睡眠時無呼吸症候群
  (OSAS)を疑います.

 ・血圧変動の増大を伴うnondipperriser型夜間
  高血圧を示すことが多く,家庭血圧測定で早朝高血
  圧を示す場合は,積極的にOSASを疑います.

 ・OSASを合併する高血圧患者では,減塩・減量と並行
  して,持続陽圧呼吸(CPAP)療法などを行い,夜間
  血圧を含めたより厳格な降圧療法を行います.


 

【 痛風・高尿酸血症 】


 ・利尿薬(サイアザイド系,ループ)は尿酸値を上昇
  させます.

 ・β遮断薬も尿酸値を軽度上昇させます.

 ・Ca括抗薬,ARBACE阻害薬は尿酸代謝に悪影響
  を及ぼしません.

 ・ロサルタン:尿酸値を低下(尿酸排泄促進作用)させ
  ます.

 ・尿酸降下薬の選択は,病型分類に基づいて行い,腎機能低下者では
  選択する薬剤や用量に注意を要します.新規キサンテンオキシダーゼ
  阻害薬は病型や腎機能低下の有無によらず有効な可能性があります.

 ・詳細はこちらを参照してください.



【 気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患 】


 気管支喘息


   ・使用可能な薬: Ca括抗薬,ARB,少量の
          利尿薬.


   ・使用不可の薬:β遮断薬・αβ遮断薬.

   ・推奨できない薬:ACE阻害薬.


 慢性閉塞性肺疾患


 
 ・使用可能な薬: Ca括抗薬,ACE阻害薬,ARB,少量の利尿薬
   β
遮断薬(選択的β1遮断薬を使用すべき).


【 肝臓疾患 】
 


 ・重症の肝機能障害 : 非心臓選択性β遮断薬は
  肝硬変患者の消化管出血と死亡のリスクを低下さ
  せる可能性があります.


 ・RA系阻害薬 : 肝臓の線維化を抑制する可能性
  があります.





 ■ 高齢者の高血圧症について               

【 薬物療法開始基準 】


 ・140/90Hg以上

 ・個別に判断する場合 : 
   収縮期血圧140-149Hg,自力での外来
   通院不能(フレイル,認知症,要介護,
           エンドオブライフを含む.

 ・75歳以上は常用量の1/2量から開始し,段階的に
  最終の降圧目標を目指す.


【 降圧目標 】


 ・65~74歳 : 130/80Hg未満.

 ・
75歳以上 : 
   140/90
Hg未満

   エビデンスの強さ・推奨度  A-1 B C D


   
忍容性あれば130/80Hg未満

   エビデンスの強さ・推奨度  A B C-2 D


 ・脱水,摂食量低下,生活環境変化などに伴い減薬や中止が必要な場合が
  あります.



【 認知症 】
 


 ・中年期の高血圧は,高齢期認知機能障害の危険因子です.したがって
  認知症予防の観点から積極的に治療すべきです.

 ・高齢者における認知症予防効果不明ですが認知機能を悪化させる
  ことはありません.

   エビデンスの強さ・推奨度  A B C-なし D

 ・認知機能障害や認知症合併高血圧に対する降圧治療効果に関する
  エビデンスは少ないですが脳心血管病予防のため降圧治療は考慮します.





 ■ エビデンスの強さおよび推奨度の強さについて      

 「高血圧治療ガイドライン2019」では、Minds ガイドライン作成の手引き
 2014
に基づき,下記のごとく全体的な"エビデンス(科学的根拠)の強さ"
 および"推奨の強さ"の提示が示されています.

エビデンス(科学的根拠)の強さ
 A 効果の推定値に強く確信がある
 B 効果の推定値に中程度の確信がある
 C 効果の推定値に対する確信は限定的である
 D 効果の推定値がほとんど確信できない
推奨度  
 1 強く推奨
 2 弱く推奨・提案する
 なし 明確な推奨ができない 




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