■ 糖尿病
◇ 糖尿病の治療目標
❑ 高血糖に起因する代謝異常を改善し、健康な人とかわ
らない生活の質(QOL:Quality
of Life)を保ち、健康な
人とかわらない寿命を全うすることを目的とします。 そ
して、糖尿病に特徴的な併発症の発症および増悪を抑制し
ます。
[特徴的な併発症]
・網膜症・腎症・神経障害
・動脈硬化による心筋梗塞・脳梗塞・壊疽・
・抵抗力の低下による感染症の合併
・膵臓癌や肝臓癌など悪性腫瘍の合併
血糖値が高いまま放置すると、徐々に特徴的な併発症を発症します。糖尿病は、
症状がでにくい病気ですが、ひとたび併発症が出ると、感覚が鈍くなる、感染が
起きやすくなる、視力の低下などの症状が進行します。また、腎臓の機能が悪化
すると人工透析が必要に場合があり、生活が制限されます。
■ 糖尿病の検査値について
◇ HbA1c
❑ HbA1c : 過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映しています。
❑ 血糖値 : 空腹時や食後。
日本糖尿病学会編・著 糖尿病治療ガイドライン2019 25頁 文光堂 2019 より改変
治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢
者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮し個別に設定し
ます。 加齢に伴い重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意します。
◇ 高齢者のコントロール目標
「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標値」 日本糖尿病学会・日本老年医学会
治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能
や基本的 ADL、手段的 ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って
重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する.
注 1:認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など、手段的 ADL:買い物、
食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、日本老年医学会のホームペ ージ
を参照する.エンドオブライフの状態では、 著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性
合併症を予防する治療を優先する.
注 2:高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は 7.0%未満である.ただし、適切な 食
事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場 合の目標
を 6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を 8.0%未満とする.下限を設けな い.カテゴ
リーIII に該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重 篤な併存疾患を有
し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とするこ とも許容される.
注 3:糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する
対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい. 65 歳 未満からこれ
らの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、
基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する.グリニ ド薬は、種類・使用量・血糖値
等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される 場合もある.
◇ グリコアルブミン(GA)
基準値11~16%
アルブミン(血中タンパク質の主要成分)とブドウ糖と結合の割合を
調べる検査です。過去約2週間の血糖コントロールをあらわす指標と
して使われます。短期間の血糖変化や、短時間の食後高血糖をとらえ
る検査です(過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映しています)。
◇ 1,5AG
基準値 14μg/mL
食品に含まれる1,5-AGは、栄養素としての役割はなく、尿糖と一緒に尿中に排泄
されます.数値が低いほど血糖コントロール不良と判断します。過去数日間の血
糖コントロールの指標に用います.
◇ 空腹時Cペプチド
❑ インスリン依存状態 : 空腹時Cペプチド 0.6 mg / ml 未満
❑ インスリン非依存状態 : 空腹時Cペプチド:1.0 mg / ml 以上
■ 糖尿病と生活習慣病
◇ 高血圧症
❑ 心血管イベント(狭心症や心筋梗塞)よび脳卒中の発症
予防には、診察室血圧 130/80未満を目標とした降圧
治療が強く推奨されます。 [推奨グレードA]
❑ アルブミン尿のある糖尿病に合併した高血圧
➢アンジオテンシン変換酵素 (ACE)阻害薬とアンジオ
テンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、アルブミン尿を有す
る腎症の進行抑制に強く推奨されます[推奨グレードA]
➢アンジオテンシン変換酵素 (ACE)阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗
薬(ARB)による治療中において、非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体
(MR)拮抗薬(フェネレノン)は、腎症の進行抑制に弱く推奨されます[推奨グレ
ードB]。ただし、高カリウム血症への留意が必要です。
❑ アルブミン尿のない糖尿病に合併した高血圧
➢アンジオテンシン変換酵素 (ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
(ARB)、カルシウム拮抗薬、サイアザイド系利尿薬の効果は不明ですが、その
有効性を期待できる可能性があります[推奨グレードU]。
❑ 1剤での降圧が不十分な場合は、多剤(2~3剤)を併用します
❑ 心不全あるいは心不全高リスクでは、SGLT2阻害薬の有用性が示されています。
◇ 脂質異常症
❑ 脂質異常症:大血管症の危険因子です。
※)大血管症とは、「虚血性心疾患」、「脳梗塞」、
「末梢動脈疾患」をさします。
❑ 高LDL血症:冠動脈疾患の強い危険因子です。
※)冠動脈疾患とは、「狭心症」、「心筋梗塞」を
さします。
❑ 高中性脂肪血症:細小血管症の危険因子です。
※)細小血管症とは、「網膜症」、「腎症」、「神経障害」をさします。
❑ 低HDLコレステロール血症:細小血管症の危険因子です。
❑ 一価・多価不飽和脂肪酸と食物繊維の摂取や、適正なエネルギー制限が、
強く推奨されます。 [推奨グレードA]
❑ 心血管疾患の発症抑制および生命予後改善には、スタチンが、強く推奨されま
す。 [推奨グレードA]
❑ エゼチミブ:心血管疾患の発症抑制に、スタチンとの併用は弱く推奨されます。
[推奨グレードB]
❑ PCSK9阻害薬 : 動脈硬化性疾患を合併している場合、心血管疾患の発症抑
制に、スタチンとの併用は弱く推奨されます。 [推奨グレードB]
❑ フィブラート、EPA製剤 : 高TG血症または低HDL-C血症を合併する場合に
心血管疾患の発症抑制に、フィブラート、EPA製剤の投与は弱く推奨されます。
[推奨グレードB]
糖尿病に合併した脂質異常症の管理目標値
|
管理目標値(㎎/dL) |
LDL-C |
nonHDL-C |
TG |
HDL-C |
冠動脈疾患・アテ
ローム血栓性脳梗塞
の既往なし
|
PAD・細血管症・喫
煙の合併なし |
<120 |
<150 |
<150
(空腹時)
<175
(随時)
|
≧40 |
PAD・細血管症・喫
煙ののいずれか合併あり |
<100 |
<130 |
冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞
の既往あり |
<70 |
<100 |
日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版,
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